抄録
光合成における酸素発生は光化学系IIタンパク質複合体(PS II)のMnクラスターによって行われる。Mnクラスターは異なる5つの酸化状態(S0-S4)があり、サイクリックに循環しS4状態からS0状態への遷移の過程で酸素を発生する。室温下ではS0状態はYD*に電子を受け渡しS1状態に移行する。そのためS1状態が暗所で最も安定な状態となっている。 S0状態からS1状態への障壁温度は235 Kと報告されている。
5つの酸化状態のうちS0,S2状態において酸素発生系由来のS=1/2“マルチライン信号”をESRによって検出することができる。
我々はYD*をあらかじめ化学還元しておくことにより、S0状態を豊富に含む試料を作成した。この試料に5 Kで光照射を行ったところS0マルチライン信号の消失が観測された。さらに消光後(dark after light)S0マルチライン信号が再び現れることを観測した。同様の結果がパルスESR測定においても観測することができた。同様の変化はS2状態においても極低温でも観測されているが、これは極低温下では不可逆であり、また近赤外光によるマンガンクラスターのスピン交換と考えられている。これに対しS0状態の変化は可視光領域での変化であり、電子移動を伴った変化であると考えられる。