抄録
光化学系IIの電子伝達鎖において、第一キノン電子受容体QAは、P680とフェオフィチン(Ph)aが電荷分離して生じた励起電子を受け取ることで、電荷分離状態を安定化させるという重要な役割を担う。こうした観点から、QAの酸化還元電位Em(QA/QA-)とPhの電位Em(Ph/Ph-)との相関は、反応の効率を決める重要な情報といえるが、これまで平衡酸化還元電位と速度論的解析からそれぞれ得られる電位差は大きく異なっており、測定条件からすると平衡電位の方が実態を反映できていないものとされてきた。そこで我々は、分光電気化学的手法を応用することでEm(QA/QA-)の精密計測を目指し、同種の計測で決定済みのEm(Ph/Ph-)と照合することで、平衡酸化還元電位を基にした電位相関の解明を目指した。Phの電位計測に行ったシアノバクテリアT. elongatusから単離した光化学系IIを、蛍光法を応用した分光電気化学計測によりEm(QA/QA-)は-140 ± 2 mVと決定し、Phとの電位差は360 mVほどであることを明らかにした。従来の報告値によればこの電位差は530 mVほどであり、仮にこれが正しければ理論上Phを介した電荷再結合は全く生じないことになるが、本研究の統一的な計測からそのようなことはなく、また得られた結果は速度論的解析から得られている電位差とも矛盾しないものといえる。