抄録
光依存型のクロロフィル(Chl)合成系を持つ被子植物は、暗所で発芽させるとChlが蓄積されず黄化する。黄化葉に光照射することで、速やかにChlの合成が開始され数時間後には光合成が可能となる。しかし、緑化過程で合成されたChlが光化学系やアンテナ系のタンパク質にどのように組み込まれていくか、これまでほとんど明らかにされていない。我々は、Chlが光合成系タンパク質へ組み込まれる際の中間体を同定し、その物理化学的な性質を明らかにすることを目指し、緑化途上のZea mays葉においてストリークカメラを用いたピコ秒時間分解蛍光測定を行ってきた。ストリークカメラでは、サンプルからの蛍光を波長、時間に依存した2次元のイメージデータとして取得できる。緑化途上の葉での測定結果を単離した光化学系I、IIでの結果と比較することで、緑化開始後どの段階で系I、IIが蓄積するかを明らかに出来る。また、系I、IIのどちらとも異なる2次元蛍光パターンを示す蛍光成分を光化学系構築過程の中間体として同定し、そのエネルギー移動を分析することも可能となる。測定の結果、光化学系構築過程の中間体と考えられる2次元蛍光パターンを示す成分が緑化開始1~2時間に現れることを明らかにした。観測された蛍光パターンには800 psという遅いエネルギー移動を示す成分があり、ある程度組織化された色素配置となっていることを示唆している。