抄録
自然界におけるほぼ全てのクロロフィル(Chl)色素は、17位にプロピオネート型の長鎖エステル基を持っている。このエステル置換基はChlのπ共役系と結合していないため、Chlの吸収特性に直接の関与はしていない。そのため、π共役系と結合している他の側鎖と比べると、さほど注目されてこなかった。しかし、この疎水性のプロピオネート基は、光合成器官を構成するChl色素とペプチドとの複合体構造安定化に、重要な役割を果たしていると考えられている。Chl-aの生合成最終段階において、プロピオネート残基のゲラニルゲラニル(GG)基上の4つのC=C二重結合のうち3つが還元される。つまり、ジヒドロゲラニルゲラニル(DHGG)基とテトラヒドロゲラニルゲラニル(THGG)基を経て、フィチル基を持つChl-aが生合成される。我々は中心目珪藻Chaetoceros calcitransにおいて、このようなエステル鎖の構造の異なるChl-aの前駆体が蓄積していることを見出し、それらの分子構造を、質量分析および1H / 13C NMR を用いて決定した。DHGGエステル体ではC10-C11位に、THGG鎖はC6-C7とC10-C11位に単結合を有していた。Chl-aのDHGG鎖は、 最近構造決定されたBChl-aのものとは二重結合の位置が異なっていることが分かった。