抄録
C4植物の2種の光合成細胞,葉肉細胞(MC)と維管束鞘細胞(BSC)には発達した葉緑体が存在し,活発な代謝産物輸送が行われている. 2-オキソグルタル酸/リンゴ酸交換輸送体(OMT)は葉緑体に存在する輸送体の一つであり,C4光合成中間体の輸送,炭素同化系から窒素同化系への炭素骨格の供給,リンゴ酸バルブに関与していると推定されている.我々は以前に,NADP-ME型C4植物トウモロコシのOMTは葉身のMCにおいて高発現している一方,BSCや根ではほとんど発現していないことを報告した.本研究では,OMTの細胞特異的発現がC4植物の3種のサブタイプで共通した特徴であるかどうか,また,栄養変動に対する発現応答を調べた.NADP-ME型のソルガム,NAD-ME型のキビとシコクビエ,PCK型のローズグラスとギニアグラスのMCとBSCにおけるOMTの発現を調べたところ,全てのC4植物においてOMTはMC特異的に発現していた.また,葉身においてOMTが顕著に発現していることをソルガム,シコクビエ,ローズグラスで確認した.さらに,トウモロコシ葉身のOMT mRNA量はアンモニアよりも硝酸イオンの補填に応じて素早い増大を示した.以上の結果をC4光合成経路ならびに窒素同化系酵素の細胞特異性と合わせて考察すると,C4植物MCに存在するOMTの共通機能は硝酸還元酵素への還元力供給である可能性がある.