抄録
温度は種子発芽の季節を決定する主要な環境シグナルである。シロイヌナズナのT-DNA挿入系統から選抜したnekojita1 (nkj1) 突然変異体の種子では、野生型よりも発芽可能な温度領域が低温側にシフトしており、28~30 ℃でほぼ完全に発芽が抑制された。LC-ESI-MS/MSによりnkj1種子のアブシジン酸(ABA)量を測定したところ、発芽が完全に抑制される30 ℃でも、野生型と同程度の低いレベルに減少した。おもしろいことに、nkj1種子は発芽においてABA高感受性を示し、28 ℃における発芽はABA合成阻害剤により回復した。したがって、NKJ1はABAシグナリングを負に制御することにより発芽誘導に関わる可能性が考えられた。nkj1は劣性変異であり、分子マーカーを用いたマッピング、T-DNA隣接配列の解析、および遺伝的相補性検定から、NKJ1は小胞体からゴルジ体への小胞輸送に関わるCOPIIを構成するSec23/Sec24サブユニットに高い相同性を持つ遺伝子であることがわかった。NKJ1遺伝子の発現は様々な器官で認められたが、種子では発芽条件で誘導され、発芽を抑制する高温条件では抑制された。現在、NKJ1-GFP融合タンパク質を発現する形質転換植物を用い、NKJ1タンパク質の細胞内局在性を解析している。