抄録
シロイヌナズナを用いた解析により、葉の細胞数の減少を引き起こす突然変異は、しばしば細胞の肥大を伴うことが明らかになっている。この現象を補償作用と呼ぶ。fugu5変異体の子葉で見られる補償作用は、スクロースを含んだMS培地上で完全に抑制されていることが明らかとなっている。クローニングの結果から、FUGU5は液胞膜に局在するH+-ピロホスファターゼ(H+-PPase)をコードすることが明らかになった。FUGU5はピロリン酸の加水分解と、プロトン輸送による液胞の酸性化という、二つの機能を持つ。本解析では、FUGU5の持つ二つの機能のどちらが重要なのか、分割して解析することとした。そこで、fugu5で過剰蓄積すると推定されるピロリン酸を分解させるため、出芽酵母のIPP1(Inorganic Pyrophosphatase1)遺伝子をFUGU5遺伝子のプロモーターに連結し、fugu5変異体に導入した。IPP1タンパク質は細胞質でピロリン酸分解のみの機能を持ち、プロトンが液胞内に輸送されることはない。興味深いことに、IPP1遺伝子の導入によりfugu5の表現型は完全に相補された。この結果から、fugu5では種子発芽時に一斉に起こるさまざまな代謝反応に伴って生じるピロリン酸を消去できないがため、細胞分裂を含む多くの細胞機能を阻害されている可能性が、強く示唆された。