抄録
植物細胞の増殖にはオーキシンが必須だが、増殖にオーキシンを必要としなくなる現象が古くから知られており、馴化(habituation)と呼ばれている。馴化の分子機構は、未だ明らかではない。我々は、以前タバコ懸濁培養細胞BY-2および、BY-2細胞から誘導された馴化細胞2B-13の細胞外ろ液中に存在する細胞分裂因子(cell division factor : CDF)を報告した。BY-2細胞は増殖にオーキシンを必要とし、オーキシン欠損培地中では増殖を停止するが、CDF添加により細胞分裂を再開する。CDFはオーキシンによらず細胞分裂を誘導できるため、その解析は馴化の分子機構の解明につながると考えられる。今回、我々はBY-2細胞の細胞抽出液からCDFの精製を試みたので報告する。このCDFは細胞ろ液中のCDFと同じく糖ペプチドで、分子サイズの異なる因子が2つ存在していた。これら2つの因子は電気的性質も異なっていた。また、細胞植継ぎ後の細胞分裂率と細胞中のCDF量の関係を解析したところ、CDFは植継ぎ後1日目からすでに検出され、4日目にはほとんど検出されなかった。細胞分裂率がピークになる2日目より前からCDFが検出され、さらに、オーキシン飢餓状態のBY-2細胞からはCDFが検出されなかったことから、BY-2細胞はオーキシンの存在下でCDFを作り、CDFにより細胞分裂が誘導されると考えられる。