抄録
ホウ素は高等植物の微量必須元素であり、その欠乏は植物の正常な生長や形態形成を著しく阻害する。細胞中のホウ素はその大部分が細胞壁に存在し、ペクチンを架橋することによって細胞壁の構造を安定化させている。ホウ素欠乏耐性を持つギンドロ培養細胞(1/20-B)ではペクチンメチルエステラーゼ遺伝子(paPME1)の発現、及びPME活性の上昇が観察され、PMEの働きによるペクチン間のカルシウム架橋の増加がホウ素架橋の減少を補っていると推測された。しかし、培養開始後2日目に見られる特徴的なPME活性の上昇に対応するpaPME1遺伝子の発現増加が見られなかったことから他のPME遺伝子の関与が考えられた。そこで、継代後2日目の1/20-B細胞からRT-PCRにより新たなPME遺伝子 (paPME2)を単離し、その発現パターンを調べてpaPME1との比較を試みた。paPME2はポプラのPME2と塩基配列の相同性が高い一方、paPME1とは約75%の相同性しかなかった。そのため培養2日目の活性上昇にはpaPME1ではなくpaPME2の誘導が関与している可能性が期待された。しかし、発現パターンはpaPME1とほぼ同じであったことから培養2日目の活性上昇には遺伝子の発現量ではなく転写後、もしくは翻訳後の調節機構が関与している可能性が考えられた。