抄録
タバコ葉緑体ゲノムには約80種のタンパク質がコードされ,それらは葉緑体遺伝子発現系により合成される.葉緑体mRNAの5'非翻訳領域(5'-UTR)には,大腸菌等のmRNAにみられるShine-Dalgarno(SD)様の配列がないものが多く,そのようなmRNAの翻訳は,mRNA上の特別なシス配列に結合するトランス因子により制御されていると考えられている.我々はこれまでにタバコ葉緑体由来のin vitro翻訳系等を用いて,葉緑体翻訳開始機構を解析してきた.本研究では,光合成関連遺伝子の翻訳制御に関わるmRNA 5'-UTR上のシス配列の解析を行った.光化学系複合体のサブユニットをコードするpsaAやpsbDなどのいくつかの葉緑体mRNAsにはSD様配列が存在する.5'-UTRへ変異導入し,in vitro翻訳系で解析したところ,これらのmRNA翻訳開始にはSD様配列が非常に重要な役割を果たしており,その領域を含む比較的短い5'-UTRがあれば効率よく翻訳が開始することが分かった.一方,ycf4やpsbAなどのSD様配列のないmRNAの5'-UTRを短くすると,その領域が開始コドンからかなり離れていても,これらの mRNAsの翻訳効率は著しく低下した.また,特定の領域への変異導入により翻訳開始効率が大きく影響を受けることが確認でき,その領域へのトランス因子の結合が示唆された.