抄録
キクの桃色や赤紫色の舌状花弁には、シアニジン型アントシアニンが蓄積している。キクにはデルフィニジン骨格を合成する上で必須となるフラボノイド3',5'位水酸化酵素(F3'5'H)の活性が無いため、デルフィニジン型のアントシアニンが蓄積せず、紫や青色の花色を持つ品種は存在しない。そこで我々は、他の植物種由来のF3'5'Hをキクに導入し、デルフィニジン型アントシアニンを合成させることによる花色の改変を試みた。まず、パンジーのF3'5'Hを様々なプロモーターで過剰発現させるコンストラクトを作製してキクに遺伝子導入した。得られた形質転換体を解析した結果、デルフィニジン型アントシアニンの合成には、花弁特異的な発現を誘導するキクのフラバノン3位水酸化酵素遺伝子(CmF3H)のプロモーターと翻訳エンハンサー(NtADH-5'UTR)の組み合わせが適していることが判明した。次にCmF3Hプロモーターと翻訳エンハンサーで様々な植物種由来のF3'5'Hを発現させるコンストラクトを作製してキクへ導入した。その結果、カンパニュラ由来のF3'5'H遺伝子を発現させることで、花弁に含まれるアントシアニン色素の約75%がデルフィニジン型になり、花色が赤色から紫色に変化したキクが得られた。