抄録
我々は,イネ胚乳に有用タンパク質やペプチドを蓄積した組換え米の開発を進めている.しかし,導入産物によっては,種子が粉質化,白濁化といった死米様表現型を呈してしまうことが分かった.このような種子では,BiP等の小胞体シャペロン遺伝子の発現が上昇しており,異種タンパク質発現による小胞体ストレスが原因であろうと考えた.植物の小胞体ストレス応答の分子機構には不明な点が多いが,近年,シロイヌナズナにおいて膜貫通型のbZIP転写因子が,その制御の一環を担っていることが明らかにされた.そこで,イネゲノム中に存在する89のbZIP型転写因子から,膜貫通領域を有すると推定されるものを3つ同定した.OsbZIP39はbZIPドメインに続いて膜貫通領域を有していた.膜貫通領域以降を欠失させたタンパク質(OsbZIP39ΔC)とGFPの融合タンパク質は,イネプロトプラストにおいて核に局在した.OsbZIP39ΔCは一過性発現によりBiPプロモーターを活性化した.また,ユビキチンプロモーター制御下でOsbZIP39ΔCを過剰発現させた形質転換体では,小胞体ストレス誘導剤処理なしに,BiPタンパク質が高発現していた.以上の結果から,OsbZIP39は小胞体ストレス応答に関わる転写因子であると考えた.