抄録
植物では、乾燥ストレスによって細胞内のアブシシン酸(ABA)濃度が上昇し、乾燥ストレス応答に関わる遺伝子群の発現が誘導されると考えられている。ABA存在下では、ABA受容体であるPYR/PYL/RCARファミリータンパク質がグループA プロテインホスファターゼ2C(PP2C)と複合体を形成し、これによってPP2Cによる負の制御が解除されSnRK2プロテインキナーゼが活性化される。サブグループIIIのSnRK2プロテインキナーゼはAREB/ABFなどの多くの転写因子を正に制御し、また、AREB/ABF転写因子(AREB1/ABF2、AREB2/ABF4およびABF3)はABA応答(ABRE)配列を介して多数のABA/乾燥ストレス応答性遺伝子の発現を制御していることを示してきた。本研究では、シロイヌナズナとイネを用いてAREB-SnRK2経路が乾燥ストレス応答において果たしている役割を解析した。BiFC法を用いたタンパク質間相互作用解析やT-DNA 挿入変異体を用いた網羅的遺伝子発現解析などを通して、AREB-SnRK2経路が乾燥ストレス時のABAシグナル伝達系において中心的な役割を果たしていることを示した。また、乾燥ストレス時のABAシグナル伝達系においてAREB-SnRK2経路が制御していると考えられる遺伝子発現ネットワークについてもあわせて考察する。