抄録
ホウ素過剰は植物に有害であるが、その毒性の分子機構は明らかにされていない。ホウ素毒性の分子機構を理解するため、根の生育においてホウ素過剰に感受性を示すシロイヌナズナ変異株の単離と解析を行ってきた。これまでに、CAP-H2およびCAP-G2の変異がホウ素過剰感受性を引き起こすことを明らかにした。これらの遺伝子は染色体タンパク複合体であるコンデンシンIIの機能制御を行うサブユニットであることから、コンデンシンIIの機能がホウ素過剰耐性に必須であると考えられた。コンデンシンはM期の染色体凝集に加えて、DNA損傷修復などでも重要な役割を果たすことがヒトや酵母などを用いた研究で明らかになっている。今回は、ホウ素過剰によるDNA損傷の可能性について報告する。
シロイヌナズナのCAP-H2変異株はDNA損傷処理(メチルメタンスルホン酸)に対して野生株よりも感受性を示した。また、根端でRAD51、ATGR1などのDNA損傷で誘導される遺伝子の発現量は変異株で野生株よりも高かった。さらに、野生株、変異株それぞれにおいて、ホウ素過剰処理によりそれらの遺伝子の発現が増加した。以上の結果は、シロイヌナズナのコンデンシンIIがDNA損傷修復に関わる可能性、そして、ホウ素過剰がDNA損傷を引き起こす可能性を示唆している。現在、ホウ素過剰によるDNA損傷を証明するため、DNA損傷の定量的な解析を進めている。