抄録
コムギ等を宿主とする赤かび病菌は、トリコテセン系カビ毒を産生し、穀物への混入が世界的に大きな問題になっている。トリコテセンは宿主への感染過程で病原性因子として作用することが知られており、エリシター活性や細胞死誘導活性を有することから、腐生菌である赤かび病菌がトリコテセンを利用して、宿主のプログラム細胞死を誘導することが示唆された。赤かび病に羅病性であるシロイヌナズナにおいて、トリコテセンの中でも毒性の高いT-2 toxin応答遺伝子を多数同定し、逆遺伝学的な解析により、トリコテセンによる防御応答を負に制御する転写因子AtNFXL1を見出した。さらに、このAtNFXL1と相互作用するタンパク質としてThionin2.3を同定した。Thioninは抗菌性タンパク質として知られており、大腸菌で発現・精製したThionin2.3は、赤かび病の菌糸の進展を阻害することを明らかにした。また、Thi2.3の過剰発現株の葉に、T-2 toxinを産生するFusarium sporotrichioidesを注入接種すると、野生株に比べて、菌糸の伸長が抑制され、また、花に噴霧接種すると、野生株と比べて、病徴が抑制されることが分かった。以上の結果から、Thionin2.3は菌糸の進展を抑制することで赤かび病菌に対する抵抗性に寄与することを明らかにした。