抄録
カフェインやテオブロミンは、チャ(Camellia sinensis)をはじめとするツバキ科ツバキ属チャ亜属の植物に存在するプリンアルカロイドである。プリンアルカロイドの合成は、合成系の最終段階に働くN-メチルトランスフェラーゼによって制御されている。カフェインシンターゼは、プリン環のN-3位とN-1位のメチル化を行い、7-メチルキサンチンからカフェインまでの合成に関与する。また、テオブロミンを蓄積する種では、カフェインシンターゼではなく7-メチルキサンチンのN-3位のメチル化を特異的に触媒するテオブロミンシンターゼが存在する。これまでに我々は、カフェイン合成能のないツバキ属植物にもテオブロミンシンターゼ遺伝子が普遍的に存在し、その転写産物が存在することを報告している。
本研究では、対象をツバキ属植物からツバキ科植物に広げ、12種の植物からカフェインシンターゼ相同遺伝子の単離を試みた。相同遺伝子がコードするタンパク質がチャのカフェインシンターゼと約70%の相同性を示した3種類の遺伝子の組換え型酵素を作製したが、テオブロミンシンターゼ活性を検出することはできなかった。得られた相同遺伝子の構造と機能を解析し、ツバキ科植物におけるこれらの遺伝子の分子進化について考察した。