抄録
世界各地の高ニッケル土壌で発生する作物の生育障害は、必須元素であるニッケルが体内へ過剰蓄積されることに起因する。しかし、植物の根におけるニッケル吸収の分子機構はいまだ明らかにされておらず、吸収抑制による障害回避法は確立されていない。一方、鉄や亜鉛などの重金属の輸送体は比較的広い基質特異性を持つことが報告されているが、我々は過剰なニッケル条件でのニッケル吸収が、これらの輸送体の誤輸送によるものと予想した。そこで今回、シロイヌナズナをモデルとして、微量必須栄養素の中でも要求量が高い鉄の吸収系によるニッケル過剰吸収の可能性について検討した。4週間水耕栽培したシロイヌナズナを鉄添加条件もしくは鉄無添加条件で過剰ニッケル(25 μM, NiCl2 )に一週間暴露し、植物体中のニッケル量を比較した。その結果、鉄無添加区の個体でニッケルによる障害が顕著に認められ、鉄添加区と比較しニッケル吸収量が約70%増加した。続いて、シロイヌナズナの二価鉄イオン吸収を担うIRT1について、そのニッケル輸送能の有無を酵母発現系により検討した。その結果、IRT1発現酵母はニッケルへの感受性が上昇し、細胞内のニッケル蓄積量は野生株の二倍に達した。これらのことから、過剰なニッケルはIRT1による鉄輸送経路を介して取り込まれていることが示唆された。