抄録
重力屈性の初発となる相対的重力方向変化の認識は、重力感受細胞内のアミロプラストが重力方向に沈降することによるとするデンプン平衡石説が広く受け入れられている。平衡石という言葉は、静的な状態を連想させる。しかし私達は、シロイヌナズナ花茎の重力感受細胞内のアミロプラストは、細胞内を動き回りながらも重力方向に偏って存在すること、またその動態は細胞内の最も大きなオルガネラである液胞との物理的もしくは機能的な相互作用を大きく受けることを示してきた。また、アミロプラストのダイナミックな動態はアクチンフィラメント(AF)に依存しているが、重力方向への沈降に対してAFは負の影響を及ぼしている。つまりアミロプラストの重力方向への沈降は、柔軟な液胞構造やAFが介在する複雑な過程であると考えられる。アミロプラストの沈降は、重力受容の初発のイベントであるにも関わらず、アミロプラスト動態制御を担う分子実体についてはほとんど知られていない。重力屈性異常変異体の原因遺伝子として単離したSGR9は、表現型の解析からアミロプラスト動態制御に関わることが判った。SGR9はアミロプラスト上に局在するRING finger タンパク質であり、in vitroでユビキチンE3 ligase の活性を示した。生細胞イメージングの結果から、SGR9はアミロプラストとアクチン細胞骨格との相互作用を制御している可能性が示唆された。