抄録
植物はストレスを避けるために移動することはできないため、様々なストレスへの適応機構を持っている。植物ホルモンであるアブシジン酸は、ストレス耐性の本質的な役割を持つため、陸生植物でのアブシジン酸の代謝およびシグナルパスウェイの進化的起源を考察することは興味深い。そこで、アブシジン酸の代謝およびシグナルパスウェイに関係する11個の機能を示す49個の遺伝子に着目し、これらの遺伝子の直系遺伝子群をシロイヌナズナ、ミヤマハタザオ、ポプラ、イネ、イヌカタヒバおよびヒメツリガネゴケで構築し、分子系統解析を行った。その結果、これら6種の共通祖先種は、ほとんどのアブシジン酸関連の機能を保有していたことが示唆された。さらに、タンパク機能を維持しながら発現パターンを多様化させた遺伝子が重複によって、植物の進化の過程で増加していることが明らかとなった。この結果は、ABA関連遺伝子が、様々な組織や環境応答の各状況で特有に発現することが、植物の進化で重要であることを示している。