抄録
雌性配偶体は被子植物の生殖に関するほぼすべての段階で重要な働きをもつことが明らかにされてきている。雌性配偶体のもつ重要な機能のうちの一つに、花粉管ガイダンスがある。東山ら(2001)は花粉管ガイダンスには雌性配偶体内の助細胞が必要であることを突き止めた。このように、助細胞の機能的な知見は広がってきているとはいえ、どのような遺伝子産物がこの助細胞の機能に関与しているのかという分子生物学的な知見はほとんど存在しなかった。しかし、笠原ら(2005)によって、MYB98遺伝子が同定され、助細胞の分子レベルでの機能を知るためのスタートラインが築かれた。MYB98::GFP をベースにした順遺伝学スクリーニングにより、雄性配偶体の変異体g21を獲得することができた。g21変異体は野生型とは異なり、花粉の中に2つあるはずの精細胞が1つしか観察することができない。これによりg21変異を持つ花粉管は胚珠に進入しても重複受精が起こらず、種子を形成するに至らない。また、雌性配偶体には変異がなく、g21変異は雌性を通じて遺伝する。今回はこのg21変異体の解析により、植物の受精にとって非常に重要な機能を見出すことが出来たので報告する。この新機能を詳しく解析することで、植物の助細胞と花粉管の関係や、中央細胞、卵細胞と精細胞との受精をより深く理解することにつながると期待できる。