日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第52回日本植物生理学会年会要旨集
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脂質メタボロミクスによって明らかにされたリン欠乏条件下に誘導される新規のグリセロ脂質生合成機構とその生理学機能の解明
*岡咲 洋三大槻 瞳成澤 知子小林 誠澤井 学上出 由希子草野 都青木 俊夫平井 優美斉藤 和季
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p. 0097

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抄録
近年,リン欠乏時にはリン脂質から糖脂質への膜の質的転換が引き起こされることが明らかとなり,膜脂質代謝のリン欠乏への応答が植物の生存に重要な役割を果たすことが示唆されている.そこで,リン欠乏がもたらす膜脂質代謝の変動をより詳細に明らかにすることを目的とし,LC-MSを用いた脂質メタボローム解析を行った.その結果,リン欠乏条件下で生育させたシロイヌナズナには未知の脂質群が蓄積することが見出された.MS/MS解析や標準物質との比較から,この脂質を1,2-diacyl-3-O-alpha-glucuronosylglycerol(GlcADG)と同定した.さらに,化合物の同定と並行してT-DNA挿入株を利用したスクリーニングを行った結果,リン欠乏条件下においてGlcADGを蓄積しないシロイヌナズナの変異体を単離した.この変異体は糖転移酵素遺伝子に変異を持つことから,この遺伝子がGlcADG合成に必要な糖転移反応に関与することが想定された.リン欠乏条件下での生育を調べた結果,この変異体は野生型よりも早く枯死することが明らかとなった.したがって,GlcADGはリン欠乏によるストレスを緩和する役割があることが示唆された.さらに,リン欠条件下で育てたイネにおいてもGlcADGの蓄積が誘導されたことから,GlcADG生合成はリン欠乏に対する抵抗機構として植物に普遍的に備わっている可能性も示唆された.
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© 2011 日本植物生理学会
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