抄録
高等植物における地上部組織の形成は、茎頂分裂組織(SAM)における細胞増殖の制御により成り立っている。シロイヌナズナのSAMは層構造をとっており、最外層よりL1,L2,L3層と分類される。L1層は表皮へと、L2, L3層は皮層や内体といった内部組織へと分化する。SAMにおける分裂活性は、遺伝的要因や環境要因により厳密に制御されているが、その詳細な仕組みや細胞層を介した協調的な制御機構についての知見は乏しい。
我々は、炭素数20以上より成る脂肪酸、極長鎖脂肪酸(VLCFA)の合成に異常を示す変異体や、その合成阻害剤を用いた解析から、VLCFA量の低下によってSAMの髄状組織を中心として細胞増殖の活性化が引き起こされることを見いだした。加えて、この細胞増殖の活性化は、サイトカイニン合成の増加に起因するものであることが明らかになった。興味深いことに、正常なSAMの活性維持ならびに生育には、L1層(表皮)におけるVLCFA合成のみで必要十分であることが解った。したがって、L1層(表皮)におけるVLCFA合成に依存した、何らかの細胞層間移行シグナルを介して、植物の地上部形態形成が制御されていると考えられる。現在、VLCFAに関連した新規シグナル分子の存在を視野に入れながら研究を行っている。