抄録
レタスでは、酸性条件下で根毛形成が誘導される。この現象の機構に低pHによるマンガン(Mn)吸収減少が関わることが示唆されている。表層微小管(CMT)の表皮細胞長軸方向に垂直な配向が根毛形成を抑制しており、低pH(pH 4)処理によりCMTの配向が乱れると根毛が発現する。低pH処理後30分でCMT配向は完全にランダム化する。本研究では、Mn吸収減少による根毛形成誘導においてもCMTのランダム化が根毛形成に先駆けて起こるかどうかを抗体染色法により観察した。
根毛形成が誘導されるpH 6・0 mM Mnの条件下で2時間培養を行った場合、将来根毛を形成する、根端から1.2 - 1.5 mm付近の根表皮細胞の少なくとも70 %でCMT配向がランダム化していた。一方、根毛形成が抑制されるpH 4・3 mM Mn条件下で1時間培養した芽生えでは根表皮細胞の10 %程度までCMTランダム化が抑制された。また、pH 6・0 mM Mn条件でのCMTランダム化及び根毛形成の誘導は10-6 M PCIB添加により抑制され、pH 4・3 mM Mn条件でのCMTランダム化及び根毛形成の抑制は10-7 M IAA添加により回復した。以上より、酸性条件下での根毛形成誘導において、低pHにより誘導されたMn吸収減少はオーキシンを介したCMTランダム化に寄与することが示唆された。