抄録
ホンモンジゴケ(Scopelophila cataractae)は、寺社仏閣の銅葺き屋根の下など銅濃度の高い環境下に偏在的に生育し、銅を蓄積する興味深いコケ植物である。しかしながら、これまでにホンモンジゴケの銅応答性に関する知見はほとんど得られていない。そこで、我々はホンモンジゴケ原糸体培養株に対する銅添加の影響を解析した。これまでに、微量の銅を添加した培養条件では、ホンモンジゴケ原糸体は無性芽形成を誘導する一方で、高濃度の銅添加条件ではオーキシンシグナル系を介したカウロネマ細胞の分化が生じることを明らかにした。この結果は、ホンモンジゴケが環境中の銅濃度に応じた細胞分化制御機構を有することを示唆する。また、この細胞分化制御は、銅以外のいくつかの重金属添加では引き起こされなかった。これはホンモンジゴケが銅特異的なセンシング機構を有することを示唆すると共に、自然界での銅環境下への偏在性を説明しうると考えられる。現在、上記の結果の詳細と銅添加の細胞機能への影響などの解析を進めている。本発表では、これまでに明らかにした結果と、そこから示唆されるホンモンジゴケの持つユニークな生理機能について報告したい。