抄録
サリチル酸(SA)は植物の病害抵抗性の二次シグナル物質として主要な役割を担うが,SAシグナル伝達の調節機構については不明な点が多い.本研究では,シロイヌナズナとキュウリモザイクウイルス黄斑系統(CMY-Y)のモデル感染系を用い, SAシグナル伝達の調節機構の解明を目指した.上記の感染系は,R遺伝子依存的かつ細胞死が誘導されない抵抗反応である高度抵抗性(extreme resistance; ER)が誘導される.まず,CMV-Y感染後の時系列メタボロームデータを取得し代謝プロファイル解析に供試した.その結果,接種後1時間以内に特徴的な代謝変動が認められた.そこで感染初期応答に着目し,CMV-Y感染後のSAやSA誘導体の内生量と,SA生合成またはSA代謝に関与することが知られている酵素遺伝子群の発現量を調べた.その結果,CMV-Y接種後1時間以内にSA配糖化酵素遺伝子UGT74F1の発現が抑制されることを見出した.UGT74F1は傷害ストレス応答性遺伝子であり,CMV-Y接種時のコントロール処理区(カーボランダム処理)で発現が誘導される.実際,ERが誘導される感染系ではSA配糖体の蓄積量が低く抑えられ,CMV-Y接種後3時間以降にSA蓄積量が増加した.以上より,植物のウイルス抵抗性時のSAシグナル伝達の活性化は,SA配糖化の負の制御機構が重要な役割を担う可能性が考えられた.