抄録
イネにABA処理するといもち病罹病性が促進されることが知られている。これまで我々は、ABAがイネのSAシグナル伝達経路のキー制御因子であるWRKY45およびOsNPR1の遺伝子発現を抑制することを報告した。また、いもち病菌接種3-4 日後からイネの内生ABA量が徐々に増加する。本研究では、感染初期における感染部位周辺での防御応答にイネのABAが及ぼす影響を解析するため、ABA分解酵素OsABA8ox1またはABAシグナル伝達のドミナント・ネガティブ変異遺伝子OsABI(G→A)をdexamethazone(DEX)誘導的に発現するイネを用いていもち病菌感染過程を解析した。
ABAを前処理したイネにいもち病菌を接種すると病斑数が増加するが、接種後のABA処理は病徴に影響しなかった。また、DEX誘導的にOsABA8ox1またはOsABI(G→A)を一過的に発現誘導すると、いずれの場合も、菌接種前に発現誘導すると病斑数が減少したのに対し、接種後の処理では減少しなかった。これらのことから、感染初期の内生ABA量またはシグナル伝達がイネの防御応答に重要と考えられた。また、葉鞘接種後の細胞を観察した結果、DEX処理した葉鞘では、宿主細胞への菌糸侵入の抑制、イネ細胞の自家蛍光の増加、カロース沈着の減少が観察された。これらの反応とSAシグナル伝達経路との関係についてさらに解析を行っている。