抄録
サリチル酸は植物の感染防御応答における重要なシグナル分子であり、その合成は病原菌の感染で誘導される。サリチル酸合成は葉緑体と深く関係しており、シロイヌナズナの場合、葉緑体に局在するイソコリスミ酸合成酵素(ICS)によってコリスミ酸から合成される。また、サリチル酸合成が光依存性であることも報告されている。一方、我々は、葉緑体チラコイド膜に局在するCa2+結合タンパク質CASが、病原体の共通分子パターンPAMPs が誘導する防御応答と、非親和性菌感染時に見られる過敏感細胞死などの強い防御応答の両方に関与することを明らかにし、植物の感染防御応答において葉緑体が重要な働きをしている可能性を示唆した(植村他 第51回植物生理学会年会)。本研究では、植物の感染防御応答における葉緑体タンパク質CASの役割を明らかにするために、植物ホルモンの網羅的解析技術を用い(Izumi et al.Anal Chim Acta 2009)、細菌性エリシターflg22処理に対する植物ホルモンの挙動を詳細に解析した。その結果、CASノックアウト変異体(cas-1)では、flg22が誘導するサリチル酸合成が抑制されることを明らかにした。また、cas-1ではサリチル酸を介して誘導されるPR1遺伝子の発現誘導も見られなかった。これらの結果は、葉緑体タンパク質CASがサリチル酸の合成制御に関わっている可能性を示唆する。