抄録
病原菌は病原性タンパク質であるエフェクターを植物の細胞内に多数送り込み、PAMP (pathogen-associated molecular pattern)の認識シグナルにより誘導される防御反応を撹乱し抑制する。それに対して植物は抵抗性タンパク質(Rタンパク質)によってエフェクターを認識し、より強い防御反応を誘導する。ジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)のエフェクターAVR3aは植物細胞内へ入り、PAMPであるINF1の認識シグナルを抑制するが、そのメカニズムはよくわかっていない。アミノ酸配列からはその機能を推測することができないため、タンパク質の立体構造解析を行った。その結果、AVR3aは4つのαヘリックスが束になった構造を持つことが明らかとなった。表面電荷分布を基に解析したところ、正電荷のアミノ酸が集中する特徴的な領域が膜脂質であるホスファチジルイノシトールリン酸の結合に重要であることがわかった。この領域に変異を持つAVR3aは、Rタンパク質であるR3aによって認識されるが、INF1の認識シグナルを抑制することができなかった。このことから、ホスファチジルイノシトールリン酸の結合がAVR3aの病原性の機能に重要な役割を持つことが示唆された。本発表では、AVR3aの立体構造から見えてきた脂質結合領域と病原性の機能との関係について議論する。