抄録
植物の強光適応機構の一つであるキサントフィルサイクルに関わるビオラキサンチン、アンテラキサンチン、ゼアキサンチンの3種の色素は、数時間から数日の強光照射への順化過程において、プールサイズ(3種の色素の総量)が増加することが知られている。光合成電子伝達鎖は強光条件下では還元型になり、これまでに、光化学系の反応中心タンパク質遺伝子はプラストキノンの酸化還元状態によって転写調節されていることが報告されている。このことから、電子伝達鎖の酸化還元状態が、キサントフィルサイクル色素のプールサイズの調節機構にも関与している可能性を考えた。そこで、シロイヌナズナ培養細胞に低濃度のDCMUを添加し、光合成電子伝達鎖を、光の強度に依存せずに酸化型に調節して、色素とその合成酵素の発現への影響を調べた。その結果、DCMUを添加した細胞は強光で培養したにも関わらず、プールサイズの増加が見られなかった。さらに、強光において転写量が増加する、キサントフィルサイクル色素を合成するβ―カロテンヒドロキシラーゼ(chy1、chy2、lut5)の転写量の増加が見られなかった。これらの結果より、キサントフィルサイクル色素のプールサイズの調節には、電子伝達鎖の酸化還元状態が関与している可能性が示された。現在、DBMIBを用いて、電子伝達鎖を還元型に調節し、プールサイズ及び色素合成酵素の発現について解析中である。