抄録
植物の受精が達成されるためには、めしべに受粉した花粉から伸びる花粉管が、標的の胚嚢へと正しくガイドされることが必須である。100年以上にわたるこの花粉管ガイダンス研究において、誘引物質さえあれば花粉管は胚嚢へと必ず誘引されるものと想定されてきた。当研究室では、胚嚢が胚珠組織に覆われていないトレニアを用いることで、培地中で花粉管を胚嚢へ誘引・受精させるためには、まず花柱組織の中を伸長し、さらに胚珠組織からの浸出成分を受けるという制御が必要であることがわかった。当研究室における先行研究から、第二段階制御を担う因子が見出された。花粉管に誘引物質への応答能を与える因子であることから、AMOR(Activation Molecule for response capability)と名付けられた。AMORは胚珠の2n組織から浸出し、熱安定性で、ヤリブ試薬によって沈殿画分に回収されるといった性質を持つことが示された。ヤリブ試薬は糖タンパク質であるアラビノガラクタンプロテイン(以下AGP)と特異的に結合し沈殿する。しかし、その分子的実体は依然として不明である。
今回、クロマトグラフィーによる効率的なAMORの精製法を確立し、他種のAGPやトレニアのいくつかの組織がAMOR様の活性を示すことが明らかになったことを報告する。さらに、応答能付与におけるAMORとAGPの関係性についても議論したい。