抄録
葉緑体から核へと伝達されるプラスチドシグナルは、葉緑体機能と核遺伝子発現を協調させるために必須のシグナルである。これまでの研究で、除草剤や抗生物質処理、あるいはタンパク質輸送の阻害により何らかのプラスチドシグナルが発生するとされている。それぞれの薬剤、あるいは突然変異の作用点が異なるため、それぞれの処理により異なるプラスチドシグナルが発生すると考えられているが、その実体は不明である。そこで、演者らはそれぞれのプラスチドシグナル誘発処理に対してユニークな核遺伝子発現応答が見られるか調べた。ノルフラゾン及びリンコマイシン処理、あるいは葉緑体タンパク質透過装置であるToc159タンパク質が欠失した変異体 (ppi2-2変異体)における核遺伝子発現を比較解析したところ、三つの処理の間に顕著な違いは見られず、同じような遺伝子発現応答をしていることが示唆された。そこで次に、これら三つの処理で同じように影響を受ける葉緑体内の代謝系が存在するかどうか調べた。その結果、ppi2-2変異体では葉緑体ゲノムにコードされたaccD及びrps14遺伝子のRNA編集が損なわれていることが明らかになった。中でも、rps14遺伝子のRNA編集は、ノルフラゾン及びリンコマイシン処理した植物でも共通して阻害されていた。これらの結果を踏まえ、プラスチドシグナルと葉緑体RNA編集の関連について議論する。