抄録
発熱植物ザゼンソウは、寒冷環境下においても花の体温を20℃前後に維持できる。発熱ステージは生長ステージとともに移行して、雌期における安定した恒温性は、雄期に入ると失われる。最近、雌期の花序には発達したミトコンドリアが豊富に含まれており、一方で雄期になるとミトコンドリアの量が減り液胞の割合が増えることが示された(J. Exp. Bot., 60, p3909-22, Planta, 121, p121-30)。しかし、こうした細胞内部の特徴を支える分子機構は依然として不明である。そこで本研究では、汎用的な遺伝子発現解析法であるSuperSAGEを用いて、生長ステージの移行に伴う遺伝子発現プロファイルの変化を解析した。まず異なる生長ステージごとにSuperSAGEライブラリーを作成して、ザゼンソウcDNAライブラリーとのアノテーションを行った。その結果、雌期で高く発現する遺伝子のうち、熱産生に重要な呼吸やミトコンドリア機能に関連する遺伝子が約4割を占めた。これらの遺伝子の大半は、シロイヌナズナの花のMPSSデータセットと比べて高く発現していた。一方で、雄期で高く発現する遺伝子のうち、液胞に局在するシステインプロテアーゼの発現量が顕著に高く約6割を占めた。以上の結果は、先に観察した細胞内部の特徴を支持しており、本発表では発熱ステージと生長ステージをつなぐ分子機構について議論したい。