抄録
植物細胞の核は組織やその発達段階によって異なった形態をとる.核の形態維持や形態変化は核そのものの機能,ひいては細胞・組織・器官・個体レベルでの高次生命現象に関与していると考えられるが,その分子機構はほとんど明らかにされていない.この分子機構の解明を目標に,核の形態が異常になったシロイヌナズナの変異体kakuを解析した。まず,核局在タンパク質とGFPとの融合タンパク質を過剰発現する形質転換体を作製した。この形質転換体の種子をEMS処理し、得られたM2個体を蛍光顕微鏡で観察して核の形態が異常になった変異体を選抜した.野生型シロイヌナズナの表皮細胞の核は紡錘形であるが,kaku変異体では核が球形であるものや,紡錘形で巨大なものが観察された.今回は,核が球形かつ小型のkaku2とkaku4のマップベースドクローニングを行った.kaku2変異体ではLITTLE NUCLEI 1 (LINC1)遺伝子に塩基置換変異が見つかった.LINC1は,核周縁部に局在するコイルドコイルタンパク質で (Dittmer et al. 2007,2008),核の形態形成に関わる主要な骨格タンパク質であると考えられる.一方,kaku4変異体では機能未知の遺伝子内に塩基置換が見つかった.タバコの葉における一過的発現系により,KAKU4は核膜に局在し,その過剰発現が核の伸長に寄与する可能性のあることが示唆された.