抄録
我々は、種子特異的な転写因子として解析されてきたABI3 がヒメツリガネゴケにも保存され、アブシジン酸 (ABA) と協調して原糸体細胞に乾燥耐性を付与することを明らかにしてきた。種子植物において、ABI3はABA 応答配列 (ABRE) および RY 配列を介して遺伝子発現制御を行う。ヒメツリガネゴケABI3 (PpABI3) による遺伝子発現制御機構を明らかにするため、ヒメツリガネゴケにおいてABAおよびABI3により活性化されるコムギEmプロモーターのシスエレメント解析を行った結果、PpABI3は主にRY配列を介して転写を活性化していることが示された。次に、ABAとPpABI3により制御されるヒメツリガネゴケ由来のLEA遺伝子 (PpLEA1)について同様の解析を行った。その結果、転写開始点上流180bpから190bpの領域にABAとPpABI3による活性化に必須のシスエレメントが存在することを明らかにした。この領域には、セイヨウアブラナ種子タンパク質遺伝子napinプロモーターにおいて、ABAとABI3による活性化に重要な配列DistBと一致する配列が含まれていた。以上の結果から、ヒメツリガネゴケと種子植物において、ABAとABI3を介した遺伝子発現制御機構が分子レベルで保存されていることが考えられた。