2026 年 13 巻 2 号 p. 136-142
目的 近年,三重郡菰野町では高齢者の救急搬送時における骨折の増加や,健康相談において途中覚醒や睡眠薬の服用に関する相談が多く寄せられており,転倒予防が地域保健における重要課題となっている。国民健康保険データベース(以下,KDB)の分析により,同町における睡眠薬の処方率および骨折に関連する医療費が県・全国平均を上回っていることが判明しており,転倒・骨折予防に向けた実態把握と介入の必要性が高まっている。本研究は,令和5年度後期高齢者健康診査の質問票データを用いて,転倒経験と関連する要因を明らかにし,地域における保健指導のあり方を検討することを目的とした。
方法 令和5年度に菰野町で実施された後期高齢者健康診査の受診対象者5,765名(65~74歳の障害認定者を含む)を対象とし,KDBを用いて年齢,性別,直近の要介護度区分などの項目を抽出した。質問票の回答データから,属性,健康状態,生活習慣,認知・身体機能,服薬状況などの項目を抽出し,これらを独立変数,自己申告に基づく過去1年以内の転倒経験(転倒あり=1,なし=0)を従属変数としてロジスティック回帰分析を実施した。
結果 有効回答者は2,360名で,平均年齢±標準偏差81.4±4.9歳,女性60.2%,後期高齢者の割合は99.8%であった。転倒経験者は456名(19.3%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,「要介護度(支援・介護認定あり):OR(95%CI)=1.60(1.15-2.23)」「お茶や汁物等でむせる:OR(95%CI)=1.77(1.34-2.34)」「歩行速度が遅い:OR(95%CI)=1.57(1.20-2.05)」「物忘れがある:OR(95%CI)=1.77(1.35-2.34)」「外出頻度が少ない:OR(95%CI)=1.54(1.07-2.23)」の5項目に有意差が認められ,これらが転倒のリスク要因であることが示唆された。また,要支援・要介護認定を受けていない,自立群に限定した分析では多剤併用(6剤以上)が転倒のリスク要因であることが示唆された(OR(95%CI)=1.41(1.03-1.93))。
結論 本研究により,地域高齢者の転倒リスクに関連する複数の生活機能指標が統計的に有意な関連を示すことが明らかとなった。特に,歩行速度の低下,嚥下機能の障害,認知機能の低下,外出頻度の減少は,転倒予防における重要な評価項目である。今後の地域保健活動においては,保健師による継続的な観察と支援を通じて,転倒リスクの早期把握および生活機能の維持に向けた介入を体系的に展開することが求められる。さらに,医師・薬剤師・介護職等との多職種連携を強化し,地域の実情に即した支援体制を構築することで,高齢者が安心して暮らせる地域環境の整備に資することが期待される。