抄録
植物の発生から栄養生長、花芽分化から種子形成にいたる様々な局面で植物ホルモンは情報分子として極めて重要な役割を演じている。個々のホルモンは情報伝達系を介し遺伝子発現を制御するとともに、他のホルモンとの量的バランスによる相互制御により、多様な作用を可能にしている。我々は半自動固相抽出法とUPLC-タンデム四重極質量分析器(UPLC-ESI-qMS/MS)、カルボン酸修飾試薬ブロモコリンを利用することで、活性型分子種を含むサイトカイニン23種、IAAとそのアミノ酸縮合体を含むオーキシン7種、アブシジン酸、ジベレリン12種の計43分子種を同じ植物試料(新鮮重量10~100 mg)から、180 サンプルの測定を同時に行なう方法をすでに報告している。今回さらにジャスモン酸とサリチル酸の同時定量も可能にした。この方法によりブラシノステロイドを除く主要ホルモン内生量の動態を一度に把握することが可能になった。イネの各器官における内生ホルモン量を解析したところ、花器官におけるGA4, GA7の蓄積や、止め葉の基部と先端部間でのシス型、トランス型サイトカイニン分子種の偏在が明らかになった。シロイヌナズナにおいても同様の解析をし、器官レベルでのホルモン内生量の違いを明らかにした。この方法を利用することで、複数のホルモン代謝系および情報伝達系の相互制御のしくみに関する有益な情報が得られるものと期待される。