抄録
トマトを代表とする被子植物の果実成熟過程では、果実組織において他の成長過程と比較してダイナミックな変化をすることが知られている。受粉をきっかけに果実形成過程に入った子房は果実へと変遷し、急激な細胞分裂と細胞肥大が生じて大きな果実を形成する。この果実発達過程に伴う急激な変化には、細胞壁の合成や分解が大きく関わっていることが考えられるが、これらは非常に微細な組織で生じることから現在までに明らかにされていないことが多い。そこで、本研究では果実発達期の果実について細胞壁成分であるぺクチンとヘミセルロース特異的な組織化学染色および免疫染色を行うことで、細胞壁多糖の変化を明らかにすることを目的とした。開葯前日から5日後における子房/果実の全組織を含んだ切片を作成し、それらにルテニウムレッドによるぺクチン組織染色およびモノクローナル抗体を用いた免疫染色を行った結果、受粉後5日間で果実は急激な肥大成長をみせ、それに伴い果皮でぺクチンの増加が観察された。この増加はメチル化ぺクチンのみならず、修飾された脱メチル化ぺクチンでも見られたことから、ぺクチンの生合成と脱メチル化が活発に行われていることが示唆された。また、胚珠内部にはぺクチン性アラビナンやガラクタンが豊富に含まれていることが観察されたことから、初期胚形成・発達過程でアラビナン・ガラクタン側鎖を豊富に含むぺクチンが重要であることが考えられた。