抄録
イネは登熟期に高温に曝されると、胚乳デンプンの蓄積が阻害され、乳白粒の発生や粒重の低下を引き起こす。登熟途中穎花についてキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)を用いたメタボローム解析を行い、各代謝物質データを関連代謝酵素遺伝子のトランスクリプトーム解析結果と関連づけることによって、高温登熟代謝アトラスを作成した。登熟期の高温によって、登熟途中穎花および完熟玄米においてスクロース、アミノ酸が増加し、登熟途中穎花に含まれる糖リン酸、有機酸が減少した。各代謝反応を触媒する酵素をコードする遺伝子群の発現の変動および発現強度を考慮すると、デンプン蓄積阻害は、穎花へ流入するスクロースの胚乳細胞内への取り込みおよび代謝の阻害、デンプン合成の阻害、デンプン分解の促進、チトクローム呼吸鎖阻害によるATP合成の低下によって生じている可能性が示唆された。また、アミノ酸の蓄積は、穎花へのアミノ酸の取り込みが高温の影響を受けにくいこと、アミノ酸tRNAチャージ反応などのタンパク質合成の高温による低下に起因すると考えられる。高温による遺伝子発現の変化と、乳白粒関連QTLや乳白粒変異遺伝子などの遺伝学的知見を比較考慮し、米品質を制御する候補遺伝子について考察する。