抄録
イネが様々な病原菌に対して示す抵抗性は複数の遺伝子が関与する複雑な過程である.この過程にどのような遺伝子群が関与しているのか,そしてどのような制御メカニズムが働いているのかを明らかにするため,病原糸状菌であるイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)をイネ葉身に接種し,レーザーマイクロダイセクション(LMD)法およびイネ44kオリゴDNAマイクロアレイ実験によって,感染部位における局所的なイネの遺伝子発現を解析した.解析においては,抵抗性遺伝子Piaの有無による抵抗性と罹病性それぞれの無傷イネ葉身にいもち病菌胞子をスプレー接種したものを用い,接種後12h,24h,36h,48hの遺伝子発現パターンについてクラスター解析を行った.その結果,抵抗性イネと罹病性イネの間に最も大きな差異が認められるのは接種12-24h後の感染初期であることが示唆された.すでに我々は,同様の方法で接種したイネ葉身の全葉を用いた解析において,抵抗性イネと罹病性イネの間に最も大きな差が認められるのが接種3日目であることを報告している.これらの結果は,イネいもち病菌感染後のイネ組織における遺伝子発現変化が空間的,時間的にダイナミックに制御されていることを示している.現在,発現パターンの異なる遺伝子群について解析を進めているので,その結果についても報告する.