抄録
光エネルギーを化学エネルギーに変換する光化学系タンパク質は,葉緑体チラコイド膜に存在している.葉緑体の電子顕微鏡観察によって,チラコイド膜には数層に重なる領域(グラナ)と単層で存在する領域(ストロマラメラ)があることが知られている. 生化学的解析により,グラナには光化学系2(PSII)が多く,ストロマラメラには光化学系1(PSI)が多く存在していると考えられている.PSIIとPSIが安全に,且つ効率良く機能するために,光を集めるタンパク質(LHCII)が,それぞれの間を行き来することで,光エネルギー吸収量を調節していることが示唆されている.これをステート遷移と呼び,近年の生化学的解析によって,ステート遷移時のチラコイド膜タンパク質の相互作用などが明らかとなってきた.しかし,グラナとストロマラメラといった異なる領域が存在するチラコイド膜で,LHCIIがPSIIとPSIの間を実際に行き来するといった相互作用は未だ直接観察されたことがない.本研究では,原子間力顕微鏡を用いて,チラコイド膜に存在する光化学系タンパク質をナノスケールで直接観察することを試みた.その結果,チラコイド膜のほぼ全ての領域において,光化学系タンパク質を含む膜タンパク質が密に存在している様子が観察された.これらの結果は,LHCIIの移動によるタンパク質間相互作用やエネルギー伝達経路のモデルを考える上で重要な知見となる.