抄録
アッケシソウ(Salicornia herbacea L.)は典型的な塩生植物であり、NaCl存在下において伸長促進が認められる。植物の伸長成長は、吸水と細胞壁伸展による細胞容積の増大により引き起こされることから、アッケシソウの芽生えを用いて、細胞壁の力学的性質およびそれに影響すると考えられる細胞壁多糖含量の変化を調べた。
胚軸の伸長は、連続照明下、暗所下で生育させた芽生えともにNaCl 100 mM処理により促進された。胚軸の細胞壁の伸展をクリープメーターを用いた応力緩和法により調べたところ、いずれの条件で生育させた芽生えにおいてもNaCl処理した胚軸の細胞壁において伸展が増加した。この時の粘性および弾性の解析を行った結果、NaClを処理した胚軸の細胞壁において粘性および弾性が低下した。細胞壁多糖の組成を調べたところ、連続照明下で生育させた芽生えにおいては、NaCl処理により単位長さあたりのペクチンの含量が著しく減少した。一方、暗所下で生育させた芽生えにおいては、NaCl処理によりペクチンおよびヘミセルロースの含量が減少した。これらの結果から、連続照明下、暗所下いずれの条件下で生育させたアッケシソウの芽生えにおいても、NaClが細胞壁多糖の含量を減少させることにより胚軸の細胞壁の粘性の低下をもたらし、それにより伸展性が増加して細胞伸長を促進することが示唆された。