抄録
植物胚の発生は動物胚の場合とは異なり、細胞系譜よりもその位置に強く依存することが、レーザーアブレーション実験やセクター解析などから示唆されている。しかし、細胞の運命を決定する位置情報の正体およびその伝達経路についてはよくわかっていない。本研究では、植物胚における位置情報伝達経路を理解するために、表皮特異的に発現するホメオボックス遺伝子ATML1の発現制御に注目して研究をおこなった。ATML1は一細胞期の胚から発現し、16細胞期以降では胚の最外層の細胞にのみ発現が限定される。ATML1の最外層特異的な発現には、オーキシンシグナルや細胞系譜が不要であることから、位置情報によって発現が制御されていることが期待できる。ATML1プロモーターの欠失実験により、ATML1の表皮特異的な発現には自身の結合配列 (L1 box) の他にいくつかのシス配列が関わっている事が分かった (Takada and Juergens, 2007)。このことは、ATML1自身を含むいくつかの因子がATML1の発現制御に関わっている可能性を示唆する。そこで、二成分転写誘導系を用いて、ATML1の発現制御に関わると予想される候補遺伝子について初期胚で過剰発現実験を行い、ATML1の発現に与える影響を調べた。これらの過剰発現実験の結果を報告し、植物胚で表皮特異的な発現を決める分子機構について考察する予定である。