抄録
NAD(H)やNADP(H)は細胞内の酸化還元反応に不可欠な補酵素であり、植物生長制御や環境適応性において重要な役割を担う。これまでに我々のグループではNAD前駆体の合成酵素遺伝子(NMNAT)やNADP合成酵素遺伝子(NADK2)を過剰発現する植物体を作出し、様々な環境ストレス耐性が付与される事を報告した。本研究ではNAD合成酵素遺伝子(NADS)を過剰発現するシロイヌナズナを作出し新たな表現型が観察されたので報告する。栄養生長期のNADS過剰発現株ではNADS合成酵素活性が41~72%増加していたが、NAD(H)およびNADP(H)量に変化はなく、野生型株と比較して顕著な表現型差異は観察されなかった。この時、NAD前駆体とNAD分解産物の蓄積およびサルベージNAD生合成経路の遺伝子発現が誘導されていたことから、NADS過剰発現株ではNAD代謝回転も同時に促進されることでNAD恒常性が維持されると考えられた。これに対して生殖生長期のNADS過剰発現株では老化進行が促進され、ほとんどの個体は開花前に死滅した。抽苔前後のNAD(H)およびNADP(H)量を比較すると、抽苔後のNADS過剰発現株ではNAD+分解が促進されていた。本講演ではその他の一次代謝産物の解析結果と併せてNAD恒常性と老化との関連について議論する予定である。