抄録
カフェインやテオブロミンは、チャ(Camellia sinensis)をはじめとするツバキ科ツバキ属チャ亜属の植物に存在するプリンアルカロイドである。プリンアルカロイドの合成はN-メチルトランスフェラーゼによって制御されており、プリン環のN-3位とN-1位のメチル化を行うカフェインシンターゼと、7-メチルキサンチンのN-3位のメチル化を特異的に触媒するテオブロミンシンターゼが存在する。これまでに我々は、カフェイン合成能のないツバキ属植物にもテオブロミンシンターゼ遺伝子が普遍的に存在し、その転写産物が存在することを報告している。カフェインシンターゼとテオブロミンシンターゼは、SAM結合部位としてモチーフB’という保存領域を持つモチーフB’メチルトランスフェラーゼファミリーに属する。
本研究では、対象をツバキ属植物からツバキ科植物に広げ、12種の植物からモチーフB’メチルトランスフェラーゼ遺伝子の単離を試みた。20個の遺伝子を単離し、組換え型酵素を作製した結果、オオバタイワンツバキ(Gordonia acuminata)からテオブロミンシンターゼ活性、ヒサカキ(Eurya japonica)からサリチル酸メチルトランスフェラーゼ活性を検出した。これらの遺伝子の生化学的特徴や構造を調べ、ツバキ科植物におけるモチーフB’メチルトランスフェラーゼ遺伝子の分子進化について考察した。