抄録
Acaryochloris spp.は遠赤色光をも利用して光合成を行うことができるシアノバクテリアである。本特徴は、クロロフィルdの吸収極大波長が他のクロロフィルと比較して長波長側にシフトしていることに起因するが、クロロフィルd合成能をもつ生物はAcaryochloris spp.しか報告されていない。クロロフィル結合タンパク質である光化学系の特性は、含有するクロロフィルの性質に大きく依存している。よって、Acaryochloris spp.のクロロフィル組成を改変すれば、その光化学系に新たな特性を付与することができる。クロロフィル組成を改変するためには、代謝工学的アプローチが有効な手段であるが、それには形質転換系の開発が必要とされた。昨年度の本会において、我々は基準株であるAcaryochloris marina MBIC 11017での形質転換系の開発とクロロフィルb合成酵素遺伝子であるCAOの導入による新奇クロロフィル(7-formyl-Chl dP)の生体内での合成を報告した。今回、我々は新奇クロロフィルを蓄積する形質転換体から光化学系Iおよび光化学系IIを単離して、その性質について解析した。その結果、光化学系I、光化学系IIともに新奇クロロフィルを取り込んでおり、一部のクロロフィルdが置換されていた。発表では、新奇クロロフィルの光化学系における役割について考察する。