抄録
ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の葉を切断後に寒天培地上で培養すると、葉の傷口から、糸状の原糸体とよばれる組織が形成されてくる。このことは、分化した状態の葉細胞が、原糸体の先端に位置する頂端幹細胞へと細胞型が変化した結果を意味している。これは、分化細胞から幹細胞への「リプログラミング」と呼ばれる現象であり、植物が持つ高い分化全能性を理解する上で、優れたモデル実験系として考えられる。これまでに、頂端幹細胞へのリプログラミングの結果起こる先端成長と細胞分裂に先立ち、遺伝子発現が変動することを高速シーケンサーによるデジタル遺伝子発現解析から見いだしている。そこで、この遺伝子発現変化とクロマチンの状態との関連を調べる目的で、ヌクレオソームのパッケージンングに影響を与えることが想定されるヒストン修飾に着目して解析を進めた。いくつかあるヒストンの化学修飾の中で、転写の活性化に関連するヒストンH3K4me3と、反対に転写不活性化に関わるH3K27me3について、ゲノムワイドな存在状態についてChIP-seq法により解析した。また、同時にヌクレオソームそのものの分布も解析した。本シンポジウムでは、これまでに得られた結果について、幹細胞へのリプログラミングにおけるヒストン修飾を中心に、その役割と制御について議論したい。