日本小児放射線学会雑誌
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症例報告
頸部造影CTで咽頭周囲膿瘍と咽後浮腫を認めた川崎病の1例
上野 梨子 石田 翔二松田 明奈権田 裕亮岩崎 卓朗海老原 慎介木下 恵司清水 俊明
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2020 年 36 巻 1 号 p. 52-58

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要旨

川崎病は乳幼児に好発する原因不明の急性熱性疾患で,小・中動脈の血管炎を引き起こす.近年,頸部造影CTで咽後間隙に低吸収域を認めた川崎病症例の報告が散見され,それは浮腫であると考えられている.

頸部造影CTで副咽頭間隙膿瘍及び咽後浮腫の所見を認めた4歳男児の川崎病症例を経験したので報告する.

来院時,患児は重度の頸部痛を訴えており,頸部の可動域制限を認めた.初回の頸部造影CTで咽後間隙と左副咽頭間隙に低吸収域を認め,後者は周囲の増強効果を伴っていた.前者は川崎病に伴う咽後浮腫であり,後者は副咽頭間隙膿瘍と考えた.咽後浮腫はγグロブリンと抗菌薬治療の後に消失したが,副咽頭間隙膿瘍は縮小傾向ではあったものの消失することはなかった.我々は抗菌薬治療を継続し,次第に頸部痛と可動域制限は改善した.第19病日に3回目のCT検査を施行したところ膿瘍はほぼ消失しており,第48病日に合併症なく退院した.

Abstract

Kawasaki disease is an idiopathic acute febrile illness prevalent among infants that primarily leads to small- and medium-sized arterial vasculitis. Reports on patients with Kawasaki disease and contrast neck CT showing retropharyngeal low-density area compatible with edema have surfaced. We described a case of a four-year-old boy with Kawasaki disease. On admission, he complained of severe neck pain and showed neck movement range limitations. We discovered retropharyngeal space and left para-pharyngeal low-density areas (the latter accompanied with peripheral enhancement) on the first contrast CT scan of his neck. We suspected retropharyngeal edema because of Kawasaki disease and a para-pharyngeal abscess. The retropharyngeal edema disappeared after IVIG and antibiotics therapy. On the contrary, the para-pharyngeal abscess shrank slightly but did not disappear. We continued with intravenous antibiotic therapy, and the neck pain and rigidity improved gradually. On the 19th day after admission, a third CT of the neck demonstrated disappearance of the abscess. On the 48th hospital day, we discharged the patient without any coronary artery sequelae.

はじめに

川崎病は乳幼児に好発する原因不明の急性熱性疾患である.病理学的に全身の血管炎を特徴とし,中・小動脈の血管炎により多彩な臨床症状を呈する.一方,咽後膿瘍は乳幼児に好発する深頸部感染症であり,咽頭後壁の腫脹に加え,頸部造影CT画像で咽後間隙に辺縁の造影される低吸収域を認めることで診断される1)

近年,頸部造影CT画像で咽後膿瘍類似の画像所見(咽後浮腫)を呈し,川崎病との鑑別を要した症例が散見される25).しかしながら,川崎病に咽後膿瘍,副咽頭間隙膿瘍などの深頸部膿瘍を合併することは稀である6).今回,頸部造影CT画像で副咽頭間隙膿瘍及び咽後浮腫の所見を認めた4歳男児の川崎病の症例を経験したので報告する.

症例

4歳男児.

主訴:発熱,リンパ節腫脹.

既往歴:特記事項なし.

家族歴:兄が溶連菌感染症で内服加療中.

現病歴:入院2日前より発熱,両側頸部の腫脹および疼痛を認め近医を受診した.溶連菌迅速検査が陽性であり,アンピシリン(AMPC)の内服を開始した.入院前日に両側眼球結膜の充血が出現した.入院当日も解熱を得られなかったため当院に紹介され,精査加療の目的で同日入院となった.

入院時現症:身長105 cm,体重14.5 kg.全身状態は良好.体温39.4°C,心拍数120回/分,血圧99/48 mmHg.両側眼球結膜の充血,咽頭発赤,口唇発赤,いちご舌を認め,両側頸部に鶏卵大のリンパ節を触知した.疼痛のため頸部リンパ節の測定は困難であり,頸部の可動域は制限され,斜頸を認めた.胸腹部に異常所見なし.手掌・足底の紅斑や硬性浮腫などの四肢末端の変化および皮膚の不定形発疹はなく,BCG接種部位の発赤も認めなかった.

入院時血液検査(Table 1):白血球数45,200/μl(Neutro 95.5%)と好中球優位に増多しており,CRP 29.53 mg/dlと高値であった.Alb 2.7 g/dlと低Alb血症を認め,AST 149 U/L,ALT 181 U/Lと肝逸脱酵素の上昇を認めた.Na 131 mEq/Lの低Na血症を認めた.凝固機能ではD-dimer 2.3 μg/mlと上昇していた.

Table 1  入院時検査所見
​〈血算〉
​WBC 45,200/μl
​(Neu) 95.50%
​Hb 12.3 g/dl
​Plt 41.8万/μl
​〈凝固〉
​PT 11.5秒
​APTT 38.2秒
​Fib 332 mg/dl
​D-dimer 2.3 μg/ml
​〈生化〉
​TP 6.4 g/dl
​Alb 2.7 g/dl
​AST 149 U/L
​ALT 181 U/L
​LDH 301 IU/L
​CK 177 U/L
​BUN 12.2 mg/dl
​Cre 0.31 mg/dl
​UA 3.0 mg/dl
​Na 131 mEq/L
​K 4.6 mEq/L
​Cl 97 mEq/L
​CRP 29.53 mg/dl
​IgG 1,055 mg/dl
​〈ウイルス迅速検査〉
​アデノウィルス 陰性
​インフルエンザ 陰性

胸部単純X線検査(Fig. 1):心胸郭比0.49,両側肺野の透過性良好.

Fig. 1 

胸部レントゲン所見(入院時)

心胸郭比49.1%と心拡大なく,両肺野の透過性は良好であった.

心臓超音波検査:心機能良好,心嚢液貯留なし.左冠動脈主幹部2.0 mm,左前下行枝1.7 mm,回旋枝1.7 mm,右冠動脈1.9 mmであり,冠動脈の拡張や輝度亢進は認めなかった.

入院後経過:入院時点では発熱3日目であり,頸部リンパ節腫脹,両側眼球結膜の充血,口唇・口腔所見(咽頭発赤,口唇発赤,いちご舌)は認めたが,不定形発疹,四肢末端の変化は認めず,川崎病の診断基準を満たさなかった.頸部痛が著明で可動域制限も認めたため,深頸部膿瘍を疑い頸部造影CT検査を行ったところ,咽後間隙に辺縁増強効果を伴わない低吸収域を,左副咽頭間隙にring状の辺縁増影効果を伴う低吸収域を認めた(Fig. 2).以上より,川崎病の疑い,左副咽頭間隙膿瘍,咽後浮腫の暫定診断とした.左副咽頭間隙膿瘍に対してセフトリアキソンナトリウム(CTRX)の静脈内投与を開始した.翌日(第4病日)に発疹が出現し,川崎病主要症状の内5症状を満たしたため,γグロブリン(IVIG, 2 g/kg/day)投与とアスピリン(ASA, 30 mg/kg/day)内服を開始した.群馬大学(小林ら)のスコア7)は発症月齢および血小板数以外の項目を満たし9点であり,IVIG不応が予測されプレドニゾロン(PSL, 2 mg/kg/day)を併用した.翌日には解熱した.第6病日に再発熱したため第7病日にIVIGの再投与を行い,第8病日に解熱した.頸部のリンパ節腫脹,疼痛,可動域制限が持続していたため,CTRXは投与を継続した.第9病日の頸部造影CT再検査で,咽後浮腫はほぼ消失していたのに対し,副咽頭間隙の低吸収域は縮小傾向を認めるも,残存していた(Fig. 3, 4).第16病日に血液検査でCRPの陰性化を確認し,第17病日よりASAを減量(5 mg/kg/day)した.第19病日に施行した3回目の頸部造影CT検査(Fig. 5)でも膿瘍所見は残存していたが,さらに縮小傾向を認め,頸部痛,可動域制限も軽快していたことから第20病日にCTRXを中止した.その後,PSL減量中に再発熱と関節痛を認めたが,PSLとASAの増量により軽快し,冠動脈病変は認めず第48病日に退院した.

Fig. 2 

治療前(第3病日)の頸部造影CT所見

a,b:咽後間隙の体軸断面および矢状断面.咽頭後間隙に造影効果を伴わない低吸収域を認めた.

c,d:左副咽頭間隙の体軸断面および矢状断面.左副咽頭間隙にring状の辺縁増影効果を伴う低吸収域を認めた.

Fig. 3 

IVIG,ASAによるKD治療後(第9病日)の頸部造影CT所見

a,b:咽後間隙の体軸断面および矢状断面.咽後間隙の低吸収域はほぼ消失していた.

Fig. 4 

IVIG,ASAによるKD治療後(第9病日)の頸部造影CT所見

a,b:副咽頭間隙の体軸断面および矢状断面.副咽頭間隙の低吸収域は,縮小傾向を認めるも残存していた.

Fig. 5 

CTRX開始17日後(第19病日)の頸部造影CT所見

a,b:副咽頭間隙の体軸断面および矢状断面.副咽頭間隙の低吸収域はさらに縮小傾向を認めた.

考察

川崎病は主に乳幼児に発症する原因不明の急性熱性疾患で,中・小動脈に炎症をきたす系統的血管炎である.多くは予後良好であるが,ときに冠動脈炎から冠動脈瘤を形成し突然死に至ることがあり,急性期治療において如何に冠動脈病変をきたさないか,早期の診断・治療が重要となる7)

近年,頸部造影CT検査で咽後膿瘍類似の所見である咽後浮腫を呈した川崎病症例の報告が散見される25).この咽後浮腫は,後咽頭の軟部組織が肥厚し低吸収域として認められるもので,血管炎に伴う蜂窩織炎と考えられている.機序としては,川崎病急性期に過剰産生された炎症性サイトカインやリンパ球系細胞の活性化が関与していると推測されている8).この所見は川崎病に特異的な訳ではなく,感染症や炎症性疾患などでも認めることがある8).川崎病において咽後浮腫を呈するのは川崎病全体の1.5–11.1%という報告があるが3,8),川崎病症例全例でCT検査を施行している訳ではないため,実際の頻度は不明である.咽後浮腫がリンパ節腫脹と同様に免疫応答の機序で起きていると仮定すると,CT検査を行っていない症例でも咽後浮腫が存在している可能性がある3)

咽後浮腫を認めた川崎病症例は,認めなかった群と比較し有意に平均年齢が高く,CRP値や群馬大スコア値が高かったとの報告があり4),咽後浮腫を呈する川崎病症例で病勢が強いことが示唆される.これは,年長児において成長とともに成熟してくる咽頭粘膜の免疫系がより強く反応することが原因と考えられている.

咽後膿瘍は乳幼児に好発する深頸部感染症である.その年齢では,年長児に比し相対的に頸部が短く咽頭腔が狭いため,呼吸困難,頸部過伸展,吸気性喘鳴などの上気道閉塞症状が出現し易い9)

咽後浮腫と咽後膿瘍の比較では,症状において嚥下痛及び頸部痛を訴える症例が咽後膿瘍例で有意に多いとする報告10)もあるが,自覚症状での鑑別は困難であったとの報告もある9,11).頸部造影CT検査により咽後浮腫を認めた川崎病症例21例と咽後膿瘍症例18例を後方視的に検討した報告10)では,造影CT上の辺縁増強効果は川崎病全例に認めなかったのに対し,咽後膿瘍では18例中16例に認めたとしている.川崎病で認める咽後浮腫は蜂窩織炎であり,CT所見で間隙の腫大と脂肪混濁を示す.一方,咽後膿瘍では膿瘍を示す液体濃度とそれを囲む被膜が増強効果を示すため,辺縁増強効果の有無の差が生じる12).これは,病初期の両者の鑑別に頸部造影CT検査での辺縁造強効果の有無は有用であることを示している.その他,咽後膿瘍では低吸収領域のサイズが大きくmass effectの程度が大きいとする報告もある9)

川崎病で副咽頭間隙に造影CT検査で低吸収域を呈したという報告は少なく,我々が検索し得た限り,2例のみであった.Caiらは,3歳男児で副咽頭間隙膿瘍の診断で抗菌薬投与および切開ドレナージを施行されたが解熱が得られず,後に川崎病主要症状が全て出現し,IVIGの投与により改善したと報告している13).また,Choiらは,川崎病と診断された3歳男児にIVIGを2回投与し解熱したが,その後頸部のリンパ節腫脹と斜頸が増悪し,頸部造影CT検査で副咽頭間隙に低吸収域を認め,抗菌薬投与と切開ドレナージにより改善したと報告している14)

膿瘍性疾患における治療の第一選択は原則として外科的ドレナージであるが,対象が小児の場合は膿瘍形成部位が主要血管や神経と近くアプローチが困難なため,抗菌薬による内科的治療を行うことが多い.実際,初期治療として内科的治療が選択され,治療に成功した症例も報告されている15).西尾らの報告によると15),小児副咽頭間隙膿瘍に対する内科的治療の効果判定としては2回目の造影CT検査が有用であり,膿瘍腔のサイズが増大していなければ,内科的治療を継続できる指標となり得る.本症例では抗菌薬開始後の頸部造影CT検査で膿瘍腔の縮小傾向を得られたため,治療効果ありと判断し内科的治療を継続した.

川崎病に伴う咽後浮腫を認めた報告では,そのほとんどがIVIG投与により低吸収域が消退している.本症例において初回の頸部造影CTで認めた咽後間隙の低吸収域はIVIG後に消失していたが,同時に認められた辺縁増強効果を伴う副咽頭間隙の低吸収域は,IVIG投与後も残存していた.このことは,咽後間隙の低吸収域が咽後浮腫であった可能性が高いことを示しているが,IVIG投与と抗菌薬投与をほぼ同時に開始しており,咽後膿瘍であった可能性を完全には否定できない.また,井上らは,川崎病40症例中3例で咽後間隙に辺縁増強効果を伴う低吸収域を認めたが,3例ともIVIG治療により低吸収域は改善したと報告している11).これは,本症例の副咽頭間隙の低吸収域が膿瘍であった可能性が高いことを示唆しており,その後の抗菌薬投与により頸部症状と画像所見ともに改善したこともこれを支持している.

結語

今回我々は,頸部造影CT検査で副咽頭間隙膿瘍および咽後浮腫の所見を認めた川崎病の4歳男児例を経験した.IVIG等の川崎病治療とCTRX投与により治癒した.頻度は少ないながら,本症例のように頸部造影CT検査で深頸部に低吸収域を認め,他症状の改善と比べて反応の乏しい病変である場合には,膿瘍の合併も考慮し抗菌薬投与や切開ドレナージなどの膿瘍治療も検討する必要がある.

 

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© 2020 日本小児放射線学会
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