2020 年 36 巻 2 号 p. 109-114
腹部外傷は,虐待による外傷の中では相対的に頻度は少ないが,腸穿孔や肝臓,膵臓などの重要臓器の損傷をともなう場合がある.潜在性の臓器損傷が否定できないような事例に対しては,まず超音波検査を行い,実質臓器損傷や腸管の壁内血腫が確認されることで,外傷の可能性に思い当たる場合もありうる.虐待による腹部外傷は5歳以下に多く,外傷による腹部外傷と比較すると若年である.十二指腸損傷は,4歳未満の誤って負傷した子供では報告されておらず,5歳未満の子供における交通事故以外の十二指腸外傷は,病因としての虐待を考慮する必要がある.全身骨撮影では虐待に特異的とされる所見もあり,画像所見の信頼性は高い.一方で腹部損傷の多くは,画像所見のみからその原因を特異的に推察することは困難である.あくまでも画像所見と臨床経過,血液検査所見などを総合的に判断することが重要と考えられる.