日本小児放射線学会雑誌
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症例報告
上腕三頭筋化膿性筋炎が疑われた3歳女児例
西村 佑真 樋口 洋介藤原 進太郎向井 敬清水 順也
著者情報
キーワード: 化膿性筋炎, 上肢, 小児, 女児, MRI
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2021 年 37 巻 2 号 p. 160-165

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要旨

化膿性筋炎の罹患筋は下肢や体幹の骨格筋が多く,外傷や免疫能低下などの素因を伴わない上肢発症例の報告は少ない.今回,MRI所見から左上腕三頭筋化膿性筋炎を疑い加療を行った症例を経験したため報告する.症例は3歳女児.左上肢を動かさない事と発熱を主訴に受診した.血液検査で炎症反応は高値で,骨軟部感染症を疑いMRI検査を行ったところ,上腕三頭筋や周囲の脂肪組織に炎症所見を認め,同部の化膿性筋炎の可能性が高いと判断した.血液培養検査後,抗菌薬の点滴静注加療で症状とMRI所見の改善を得て合併症なく退院した.血液培養は2セットとも陰性だったが,臨床経過より化膿性筋炎と診断した.化膿性筋炎は進行すると膿瘍形成するため外科的治療を要し,後遺症を残すこともある.MRI検査で早期診断することで,侵襲的な処置を行わず治療できる可能性がある.発熱に加えて上肢の痛みがある場合には当疾患の存在も念頭に診察・検査を行うべきである.

Abstract

Pyomyositis occurs mostly in the trunk and lower extremities, and there are few reports of it occurring in the upper extremity in the absence of predisposing factors such as trauma or immunocompromised conditions. We report a case of a previously healthy three-year-old girl who developed left triceps muscle pyomyositis. She presented with left upper limb immobility due to pain and fever. Laboratory data showed an elevated white blood cell count and C-reactive protein level. MRI revealed no abnormal findings in the bone marrow; however, there were inflammatory findings in the triceps muscle and the surrounding fatty tissue. Although the blood cultures were negative, she improved after treatment with intravenous antibiotics and was discharged without any sequelae. If the diagnosis is delayed and the disease progresses to abscess formation, it may require surgical treatment and even leave sequelae. We believe that this condition should also be considered as a differential diagnosis in patients with fever accompanied by local limb pain. Early diagnosis using MRI at an appropriate time is essential for preventing invasive procedures.

はじめに

化膿性筋炎とは筋肉の亜急性感染症であり,tropical pyomyositisとも呼ばれるように,かつては熱帯地方に多いとされていた.近年は温帯地域での発症も増加しており,本邦での報告も散見されている.小児での発症も認めるが,多くが下肢や体幹の筋肉に生じたものであり上肢での発症報告は稀である.今回われわれは,MRI検査所見から上腕三頭筋化膿性筋炎を疑い,外科的処置を要さず治癒し得た若年小児例を経験したため報告する.

症例

症例:3歳女児.

主訴:左上肢を動かさない,発熱.

既往歴:肺炎で入院加療歴あり,鉄欠乏性貧血・低身長で外来加療中(成長ホルモン補充療法は行っていない).

家族歴:特になし.

生活歴:最近の外傷・虫刺され・予防接種などなし.

内服薬:水溶性ピロリン酸第二鉄,酢酸亜鉛水和物製剤.

現病歴:生来健康な3歳女児.入院2日前の夜に母が脇を支えて抱きかかえようとしたところ,左腋窩の痛みを訴えた.その際は体温37.4°Cと明らかな発熱はなかった.入院前日朝より38.2°Cの発熱が生じ,また左上肢を全く動かさなくなった.かかりつけ医を受診し,血液検査で白血球11300/μL,CRP 5.0 mg/dLと炎症反応の上昇もあり精査目的で当院整形外科紹介となった.当初は肘内障を疑われて整復術を施行され,その後は左上肢の完全な挙上は困難なものの肘関節以遠は一旦動かすようになった.また,スクリーニングで行ったマルチプレックスPCR検査でヒトライノ・エンテロウイルスが陽性だったため,発熱は上気道炎によるものと考え帰宅とされた.しかしその後も左上肢を全く動かそうとせず,発熱も持続するため,入院当日朝に当院小児科を受診した.血液検査で白血球15500/μL,CRP 8.7 mg/dLと炎症反応はさらに上昇しており,精査加療の目的で入院とした.

入院時現症:身長86.7 cm,体重11.1 kg.全身状態は良好.体温38.6°C,心拍数142回/分,血圧110/78 mmHg,SpO2 98%(大気中).頭頸部や胸腹部に異常所見なし.皮疹なし.左腋窩に5 mm大のリンパ節を1か所触知した.圧痛は認めなかった.両手関節・肘関節には圧痛なし,他動運動でも痛み誘発なし.右肩関節には圧痛なく挙上可能であったが,左肩関節は触診を嫌がり,挙上不可能であった.皮膚表面には明らかな発赤腫脹や熱感は認めなかった.

入院時検査所見:Table 1 血液検査所見,Fig. 1 MRI・レントゲン)

Table 1  入院時血液検査所見
​WBC 15500/μL ​AST 32 U/L ​IP 4.6 mg/dL
​ Neu 70.70% ​ALT 14 U/L ​T-Bil 0.7 mg/dL
​ Eos 0.30% ​TP 6.8 g/dL ​CRP 8.75 mg/dL
​ Bas 0.10% ​Alb 4.0 g/dL ​PCT 0.06 ng/mL
​ Lym 24.20% ​Cr 0.33 mg/dL ​CK 142 U/L
​ Mon 4.70% ​UN 9 mg/dL ​ミオグロビン 33 ng/mL
​Hb 12.6 g/dL ​Na 137 mmol/L ​APTT 35.0秒
​RBC 4.51 × 104/μL ​​K 4.1 mmol/L ​PT 11.3秒
​Hct 36.60% ​Cl 100 mmol/L ​PT-INR値 1.06
​Plt 362 × 103/μL ​Ca 9.7 mg/dL ​FIBG 554 mg/dL
Fig. 1 入院時画像所見

(a)左上腕単純X線写真

(b)左肘単純X線写真

(c)MRI 脂肪抑制T2強調画像 冠状断

(d)MRI 脂肪抑制T2強調画像 水平断

X線写真では明らかな異常所見なく,MRIでは筋線維に沿うように高信号域が見られ,周囲脂肪織にも高信号域が波及している.

血液検査では白血球数,CRPの上昇を認めた.筋逸脱酵素の上昇は認めなかった.左上肢のレントゲン検査では明らかな骨折像や骨硬化像は認めなかった.左上肢のMRI検査では骨髄に骨髄炎を思わせる信号変化は認めなかった.左上腕三頭筋に腫大があり,脂肪抑制T2強調画像で筋線維に沿うように高信号域が見られ,周囲脂肪織にも高信号域が波及していた.血腫や膿瘍を疑う所見は認めず,T1強調画像で高信号を示す部分は認めなかった.関節部には明らかな異常所見は認めなかった.

入院後経過:Fig. 2 退院前MRI)

Fig. 2 退院前MRI

(a)脂肪抑制T2強調画像 冠状断

(b)脂肪抑制T2強調画像 水平断

入院時に認めていた筋線維の高信号域は縮小し,周囲脂肪織の高信号は消失している.

入院時のMRI所見より左上腕三頭筋化膿性筋炎を考慮し,血液培養検査を2セット行った上でCefazolin Sodium(CEZ)100 mg/kg/dayとClindamycin Phosphate(CLDM)25 mg/kg/dayで加療を開始した.入院3日目には解熱したが,左上肢は動かそうとしなかった.入院4日目の血液検査時に,採血を嫌がって左上肢を動かしたため,検査終了後患部の痛みを問うと「痛くない」という反応が得られた.その後は付き添い家族から見ても普段通りに左上肢を動かすことができるようになった.入院11日目に血液検査で炎症反応が陰性化していることを確認した.退院前のMRIでは入院時に認めていた左上腕三頭筋全体の脂肪抑制T2強調画像での高信号域は消退し,部分的に残存するのみとなっていた.以上の経過から左上腕三頭筋化膿性筋炎と最終診断し,全4週間の治療となるようにClindamycin Hydrochloride内服を追加し退院とした.明らかな外傷機転や基礎疾患のない児の軟部組織感染症であったため,免疫異常の可能性も考慮し免疫学的検索を追加した.IgG 868 mg/dL,IgA 84 mg/dL,IgM 150 mg/dL,IgG分画(IgG1 68.60%,IgG2 16.76%,IgG3 12.74%,IgG4 1.91%),TBサブセット(T cell 68.9%,B cell 16.6%),Tサブセット(CD4 41.1%,CD8 25.0%),好中球殺菌能97.83%,好中球貪食能91.47%,PHA幼若化検査56800 cpm(低下なし)と,明らかな免疫学的異常は認めなかった.

考察

上肢の化膿性筋炎の報告は少なく,本邦での報告は調べうる限りで本症例を合わせて10症例,そのうち小児例は6例であった15)Table 2).成人例はほとんどが糖尿病や免疫不全などの基礎疾患を伴うものであり,本症例のように免疫不全や明らかな外傷の既往がなく,原因特定困難であった症例は3例で,いずれも若年小児例であった.小児例では男児に多いと報告されており6),今回の上肢例の検討でも小児の報告はいずれも男児であった.全例MRI検査で診断がついており,当疾患におけるMRI検査の有用性は明らかである.MRI検査にはしばしば鎮静を要し実施のハードルは高いものの,特に新生児・乳児期や幼児期では症状を訴えることができないため,診察所見や血液検査結果にMRI所見を加えることで診断の妥当性が高まると考える.病期は侵入期・化膿期・晩期に分けられ,MRI所見としては侵入期には非特異的な筋肉の浮腫として描出され,病変周囲に炎症の波及を認め,皮下脂肪組織にも異常信号域を認める7).この時期であれば2–3週間の抗菌薬投与で保存的に治癒可能であるが,病勢が進行すると膿瘍が形成される化膿期となり,T2強調画像にて著明な高信号を示し,被膜は著明に造影される.この時期では切開排膿などの外科的処置が必要となる.更に進行し晩期になると敗血症などで死に至ることもあるとされている1).本症例は膿瘍形成前の侵入期に診断できたため,外科的処置を要することなく治療でき,後遺症なく退院できたと考えられる.

Table 2  本邦における上肢化膿性筋炎報告例まとめ
文献 年齢 性別 部位 起因菌 受傷機転 合併症 治療
1) 日齢14 左上腕三頭筋 MRSA 不明
上肢の動きが悪く受診
なし VCM
2) 1か月 左前腕 MSSA 不明
単麻痺を主訴に受診
なし ABPC/SBT
3) 3歳 左上腕 不明 不明
不明熱・下肢痛で受診
なし MEPM
4) 11歳 左上腕三頭筋 Streptococcus pyogenes ドッジボール なし ABPC/SBT
5) 11歳 左肩・左大腿 MRSA 野球 前胸部のアテローム VCM
自験例 3歳 左上腕三頭筋 不明 不明
不明熱・上肢痛で受診
なし CEZ + CLDM

侵入期のMRI所見は非特異的であるため,感染初期においては画像のみでは診断が困難であり,筋肉の浮腫を呈する疾患,例えば多発性筋炎,皮膚筋炎,横紋筋融解症をはじめ,早期の骨化性筋炎や外傷による筋断裂などでも同様の所見が得られることがある7).本症例は自己免疫疾患を疑うような他の症状や検査所見はなく,また,筋逸脱酵素の上昇やミオグロビン尿も認めなかった.多発性筋炎や横紋筋融解症では筋逸脱酵素の上昇が特徴的であるが,本疾患では筋逸脱酵素の上昇は軽微であることが多く,前者との鑑別にも用いられる6).外傷による筋断裂を反映している可能性については完全には否定できなかったが,問診上少なくとも家族が見ている限り明らかな外傷機転はなく,児本人からもそのような訴えはなかったこと,また,炎症反応の上昇に見合うような他の感染兆候を認めなかったことから,臨床的に化膿性筋炎の診断に至った.抗菌薬への良好な反応が得られたため切開排膿や生検は施行しておらず,病理学的に炎症所見を証明することはできなかった.

化膿性筋炎の好発部位は大腿四頭筋(26.3%),腸腰筋(14.0%),臀筋(10.8%)などで,上腕三頭筋は5.6%と報告されており8),上肢での発症は比較的稀である.本症例では幼児であることと,局所の発赤・腫脹などが目立たず,「左上肢を動かさない」「触ると嫌がる」という理学所見から,当初は腕を引っ張られたといった典型的な病歴はないものの肘内障を疑われた.その後,症状が持続するため再受診した際に,診察にて腋窩リンパ節腫脹を認めたこと,左肘関節以遠は可動域制限なく疼痛も認めないことから,肩関節または上腕の病変を考えMRI検査を行い診断に至った.

血液培養の陽性率は30%と報告されている5).原因菌は黄色ブドウ球菌が最も多いとされており,その他A群β溶連菌,結核菌なども報告されている.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA)の関与も多数報告されている.本症例は感染症による入院を繰り返すなどの既往はなかったため,第一世代セフェム系抗菌薬であるCEZに加え市中感染型MRSAもカバーするためCLDMを併用し加療を開始した.治療反応性に症状・血液検査ともに改善したこと,血液培養検査が陰性であったことから高度薬剤耐性のMRSAが関与していた可能性は低いと判断し,抗菌薬の変更は行わずに加療を行った.

化膿性筋炎の原因や発症機序は解明されていないが,外傷や手術などから直接炎症が波及する場合と,血行性に波及する場合があると指摘されており,小児例では血行性感染が多いとされている.骨格筋は血流が豊富であるため平時は細菌繁殖の培地とはなりにくいが,何らかの筋損傷が加わり血腫を生じた場合には,損傷部に細菌が定着し膿瘍形成することがあり,発症の一因と考えられている1,6).本症例では血液培養を2セット採取したがいずれも陰性であり,明らかな外傷既往や免疫異常も認めなかった.アトピー性皮膚炎など皮膚バリア機能の低下した状態との関連も報告されているが9),本症例では皮膚状態も問題なく,原因は不明であった.一般的には繰り返すものではなく単回の発症とされているが,本症例においては退院時点では後遺症を認めなかったものの今後再発がないか慎重に経過観察する予定である.

結論

発熱を伴った左上肢痛を呈した3歳女児に,MRI所見から左上腕三頭筋化膿性筋炎を疑い,抗菌薬のみで保存的に加療した.化膿性筋炎は比較的稀な疾患ではあるが,近年本邦でも報告が増えており,進行すると外科的処置を要し,後遺症を残すこともある.発熱に加えて局所の疼痛を訴える場合には,明らかな外表異常がなくとも鑑別として当疾患を念頭に遅滞ないMRI検査を行う必要がある.

 

本論文の投稿にあたり,患者家族に書面で同意を得ました.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

文献
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