日本小児放射線学会雑誌
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症例報告
顎癒合症を伴いDobrow症候群と診断した女児例
石田 理奈 米山 俊之石川 有希美嶋 泰樹織田 久之新妻 隆広大日方 薫山本 麻子大橋 博文清水 俊明
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2023 年 39 巻 1 号 p. 41-46

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要旨

顎癒合症は,上下顎が骨や軟部組織によって癒着している極めて稀な先天異常である.顎癒合症を伴う多発先天異常を認め臨床的にDobrow症候群と診断した2歳女児を報告する.

在胎38週3日,出生体重2334 g.生直後に開口障害があり,経鼻挿管を施行され,日齢107に気管切開術を施行された.合併異常として,右耳介欠損・外耳道閉鎖,頸部瘻孔,左耳介低形成,顎癒合症,小顎があった.頭頸部・胸部3 Dimensional CT画像(以下3D-CT画像)で顎癒合症,中耳骨形成異常,肋骨癒合,胸椎形態異常を認めた.頭部MR画像では左前頭葉に髄鞘低形成および髄鞘化遅延を認めた.2歳現在重度の発達の遅れがある.顎癒合症と合併する先天異常の特徴からDobrow症候群と診断した.

顎癒合症を伴う多発奇形症候群の鑑別は多岐に渡る.特に,胸椎・肋骨形態異常はDobrow症候群に特異的であり,予後にも影響するため,詳細な画像評価が診断に有用である.

Abstract

Syngnathia is an extremely rare congenital anomaly involving bony or soft tissue adhesion between the maxilla and mandible. We report herein the case of a 2-year-old girl clinically diagnosed with Dobrow syndrome due to multiple anomalies, including maxillomandibular fusion. She was born at a gestational age of 38 weeks and 3 days, weighing 2334 g. At birth, mouth opening was limited due to severe microstomia. Nasal intubation was performed on the day of admission, and tracheoscopy was performed on day 107. Physical features included right coloboma lobuli, right choanal atresia, cervical fistula, hypoplasia of the left auricle, maxillomandibular fusion, and micrognathia. Craniofacial and thoracic three-dimensional computed tomography demonstrated maxillomandibular bony syngnathia, middle ear abnormalities, and vertebral bone and rib anomalies at multiple levels. Callosal hypoplasia and delayed myelination in the left anterior lobe were evident on magnetic resonance imaging of the brain. Severe intellectual retardation was also identified after birth gradually. Given the presence of maxillomandibular bony fusion and multiple other anomalies, Dobrow syndrome was clinically diagnosed. Differential diagnoses for multiple anomalies with syngnathia cover a wide range. Vertebral bone and rib anomalies are specific for Dobrow syndrome and also affect prognosis, so careful radiological examination is recommended.

諸言

顎癒合症は原因不明の極めて稀な先天異常である.顎癒合症の原因としては,外胚葉の無秩序な分裂1),神経堤細胞の早期喪失2),催奇形性物質の使用による口咽頭膜の遺残3),鰓弓の発達期のビタミンA等の使用により羊膜絞扼輪が障害されること4)等に言及した仮説がある.手術の観点から,解剖学的に分類したLasterの分類5)やDawsonの分類6),Tauroの分類7)が提唱されている.

近年では3D-CT画像を含む画像診断の進歩に伴い,癒合部位と癒合形式,症候群との関連で分類した,新しい分類も提唱されてきている8).しかし顎癒合症は症例数が少なく,疾患概念が構築される途上にあり,統一した病型分類が作られていない.

今回,顎癒合症を伴う多発骨異常を認め,Dobrow症候群と臨床診断した女児例を経験したので報告する.

症例

2歳女児.

主訴:呼吸困難

周産期歴:在胎38週3日,出生体重2334 g.胎児期に羊水過多などの異常の指摘なし.

家族歴:両親の飲酒歴や催奇形性のある薬剤使用歴はなかった.

既往歴・現病歴:出生時のABR(automated auditory brainstem response)検査で両側難聴あり.染色体検査は46, XXであった.出生後に自発呼吸がなく胸骨圧迫を施行された.その後開口障害を認めたため,前医で気管支鏡下に経鼻挿管を施行された.日齢1に気管切開術を施行されたが留置困難であったため,以降は経鼻挿管・経鼻胃管で管理されていた.日齢51に胃瘻造設術,日齢107に再度気管切開術を施行され在宅管理となっていたが,開口障害・呼吸困難があり咳き込み嘔吐が続いていた.1歳2か月時に呼吸状態の増悪があり当院受診し,気道分泌物の貯留と喘鳴があり,入院とした.

入院時身体所見:身長60.0 cm(−6.0 SD),体重7.6 kg(−1.8 SD).

体温38.9°C,脈拍160回/分,経皮的酸素飽和度(SpO2)95–98%(酸素:0.5 L/分投与下).呼吸窮迫症状が強く気道分泌物が多量に貯留しており,両側含気不良で呼気性喘鳴を聴取した.

身体異常所見として,両側眼瞼下垂,顎癒合症,小顎,左耳介低形成,右耳介欠損,右外耳道閉鎖,頸部瘻孔を認めた.一方で四肢の形態異常は認めなかった.

入院時血液検査所見:血液ガス検査では著明なCO2の貯留と呼吸性アシドーシスを認めた.

入院時画像所見:胸部単純X線写真では心胸郭比51%,両側肺野透過性低下,無気肺,及び肋骨癒合,高度な椎体形態異常を認めた.また,異常な形態の椎体同士が重なり合い,上位胸椎では左に軽度凸,下位胸椎から胸腰椎移行部にかけては右に軽度凸のsigmoid状のalignmentの不整を認めた(Fig.1).

Fig. 1 1歳3か月時 胸部単純正面像

①左第7–8肋骨癒合を認める.

②Butterfly vertebra,形態左右差,hemivertebraなどの椎体形態異常が多発している.

③椎弓の癒合不全を認める.

④右上葉の無気肺を認める.

頭頸部単純CT画像では側頭骨異常,顎関節癒合,耳小骨形成異常を認めた(Fig.2a, b).一方で,内耳骨迷路,内耳道は正常であった.この時点で上顎洞の形成は認められなかった.

Fig. 2 1歳3か月時 頭部CT画像

a.骨条件 冠状断MPR画像

  両側下顎骨頸部の形成は認められるが,著しく短縮している.下顎頭は扁平で,関節裂隙は狭小である(矢印).

b.骨条件水平断像 中内耳所見

  ①右側ツチ骨 ②左側ツチ骨 ③左内耳骨迷路

  右側:外耳道は閉鎖している.乳突洞,乳突蜂巣は無形成で,鼓室内には含気がない.ツチ骨は低形成である.キヌタ骨は鼓室壁に固着している.

  左側:耳介形成不良で,前方に反転している.

胸部単純CT画像では,下行大動脈の位置異常,右第10–12,左7–8及び9–12肋骨の癒合を認めた(Fig.3a).また,椎体に関してはbuttefly vertebra,hemi vertebraを含む様々な種類の椎体形体異常を認め,両側肋骨基部癒合の奇形と複合しており,放射線科医による正確な同定も困難であった.実際の画像所見を椎体レベル骨条件冠状断multi planar reconstruction画像(以下MPR画像)(Fig.3b),左前斜位Volume Rendering画像(以下VR画像)(Fig.3a),後方要素レベル骨条件冠状断MPR画像(Fig.3c)及び背側からのVR画像(Fig.3d)に示した.

Fig. 3 1歳3か月時 胸部CT画像

a.左前斜位VR画像 胸骨をずらしたもの.

  ①第5椎体 hemivertebra

  ②右第10–12肋骨基部の癒合

  ③左第7–8肋骨基部の癒合

  ④左第9–12肋骨基部癒合

b.椎体レベル 骨条件 冠状断MPR画像

c.後方要素レベル 骨条件 冠状断MPR画像

d.背側からのVR画像

  ①c,d 第7–8椎体の左右椎弓癒合

  ②c,d 左第7–8 横突起の癒合

  ③d 右第4横突起形成不全

  ④下部胸椎,L1の椎弓の癒合不全

臨床診断:顎癒合症と合併する先天異常の特徴からDobrow症候群と診断した.

入院後経過:経過から誤嚥性肺炎と考えられ,人工呼吸器管理とし,抗菌薬投与を開始した.また,喘鳴も聴取したためロイコトリエン受容体拮抗薬,プレドニゾロン3 mg/kg/日も併用した.

1歳4か月時点で啼泣時のSpO2低下に対して気管支鏡検査を施行し,気管軟化症と診断した.持続的陽圧呼吸管理を開始し,2歳7か月の気管支鏡検査で気管軟化症の改善を確認した.

精神・運動発達面では,2歳9か月時の遠城寺式乳幼児分析的発達評価で,移動運動・社会性の発達指数が25.8と著明に低下していた.

成長発達に関して,身長,体重,頭囲は全て正常下限で推移し,2歳10か月の時点で身長75.4 cm(−4.7 SD),体重8880 g(−2.6 SD),頭囲は44 cm(−2.6 SD)と小頭症を認めている.

2歳10か月時の頭部MR画像では,T1強調画像軸位断では概ね年齢相応の髄鞘化を認めたが,T2強調画像で左前頭葉の髄鞘化遅延を認めた(Fig.4a, b).矢状断では脳梁低形成を認めており,評価としては1歳2か月から1歳6か月相当の発達と考えられた(Fig.4c).

Fig. 4 2歳10か月時 頭部MR画像

a.T1強調画像軸位断:概ね年齢相応の髄鞘化を認める.

b.T2強調画像軸位断:前頭葉の左側で髄鞘化遅延を認める(矢印).

c.T1強調画像矢状断:脳梁低形成及び脳幹形成不全を認める(矢印).

考察

顎癒合症の報告は極めて少なく,1936–2018年までの報告が118症例のみであった8).顎癒合症の中でも,線維性か骨性癒合なのか,片側性か両側性か等によって頭蓋顔面形態も異なる.

顎癒合を伴う先天異常症候群の鑑別を挙げた(Table 19,10).膝窩翼状片症候群は四肢をはじめとする結合組織の癒合が特徴的である.しかし本例には翼状片はなく,顔貌所見も本例とは異なっている.口蓋裂-外側癒着症候群も本症例とは相違点が多かった.

Table 1  顎癒合症の鑑別
鑑別 口腔 神経 骨格
Dobrow症候群 虹彩欠損,眼振 顎関節癒合 歯肉癒合
舌低形成
口唇突出
難聴 発育不全 椎骨・肋骨異常
膝窩翼状片症候群 眼瞼結合組織癒合 上下顎癒合 口唇口蓋裂
舌口唇小窩
合指症
下肢異常肢位
口蓋裂-外側癒着症候群 口蓋-舌後部または
口腔底部の線維性癒合
口唇裂
鼻唇溝開大
耳感染症
本症例 眼瞼下垂 顎関節癒合 舌低形成
口蓋裂
口唇突出
耳介低形成
外耳道閉鎖
中耳奇形
発育不全
知的障害
椎骨・肋骨異常

本症例のように,Dobrow症候群では特徴的な顎,顔面,側頭骨,脊椎骨の微細な三次元的な骨の重なりや不規則骨を認める(Fig.5 CTDIvol: 49.2 mGy, DLP: 689.1 mGy/cm, Fig.6)ため,CT画像,MPR画像,VR画像,必要に応じてMR画像を組み合わせた評価をすべきである.特に椎体形態異常についてはDobrow症候群に特異的であり,機能的予後にも直結するため,診断,適切な治療介入において,積極的な画像評価,フォローアップが必須である.

Fig. 5 4か月時 顎骨VR画像

下顎骨が極めて小さく,そのまま上顎骨・頬骨と骨癒合している(矢印).

Fig. 6 2歳3か月時 頭頸部X線側面像(左右反転像)

①眼窩低形成 ②耳介低位 ③上下顎癒合 ④上下顎切歯突出,小顎症

Dobrow症候群の報告は3例のみ1113)である(Table 2).これらの文献に掲載されている顔面写真はいずれも,額が狭く口唇が捲れ上がり,下顎は著しく小さく本症例と頭蓋顔面形態が酷似している.顎関節癒合を伴うこのような特徴的頭蓋顔面形態と合併する骨異常等から臨床的にDobrow症候群と診断した.本症候群で報告された所見のうち,虹彩コロボーマ,眼振,生殖器・四肢奇形は患児には認めなかった.

Table 2  Dobrow症候群の比較
報告者 Dobrow B et al. Verloes A et al. Villanueva-García D et al. 本症例
周産期歴 分娩方法 予定帝王切開 経膣分娩
在胎週数 満期 38.5週 38週3日
Apgar socre 6/7 7/10
出生体重(kg) 3.1 2.3
母体情報 母26歳,G1P1A0 年齢不明,家族歴なし 20歳,近親婚 26歳,G2P2,家族歴なし
両親 嗜好・薬剤歴 母:妊娠初期にAMPC なし 父:コカイン,アルコール
母:妊娠初期に五味子
なし
性別 (46, XX)女児 (46, XX)女児 (46, XX)女児 (46, XX)女児
頭蓋縫合狭小,小頭症 小頭症,狭額症 小頭症,狭額症
両側虹彩欠損
右眼球低形成
眼振
眼振 眼瞼下垂
眼窩低形成
顎関節癒合 顎関節癒合 両側上下顎-頬骨間の骨性癒合 上下顎癒合
口腔 口唇突出,舌低形成
下顎切歯前方突出
口蓋裂,歯肉癒合
左頬骨と顎鉤状突起
(筋突起)の癒合
口唇突出,口蓋裂
上下歯肉癒合
舌低形成
口唇突出,舌低形成
口蓋裂
難聴 難聴 耳介低位,後方偏位 耳介低形成,低位
左外耳道閉鎖
中耳奇形
神経 右顔面神経麻痺 発育不全,知的障害 発育不全,知的障害

Dobrow症候群は,1983年にDobrowが報告した,顎癒合を主徴とする先天性多発異常である11).成長遅延,知的障害,小頭症,虹彩欠損症,眼振,難聴,椎体形態異常,生殖器,四肢異常,顔面形態異常などの様々な多発異常を認める.今までに報告は3例のみであり,全例女児であった.まだ明確な診断基準はなく,身体所見や臨床症状,画像所見などでの診断が必要である.両親の血縁関係から常染色体劣性遺伝性が示唆された報告がある13)が,原因遺伝子は不明である.既報や本症例では遺伝子解析は未実施である.Dobrow症候群の診断基準をより明確にするためには,更なる症例報告の蓄積と詳細な画像評価,遺伝学的原因究明が必須と考える.

本症例では長期にわたる胃瘻造設と,開口障害および歯牙萌出により,口腔内感染や誤嚥性肺炎のリスクもあり,入院管理を続けている.理学療法により運動面での発達は進んでおり,髄鞘化も進んでいることから,リハビリや手術によって予後の改善を期待できると考える.

本報告に関連し,日本小児科放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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